知られざるメークミラクル

長嶋さんとのゴルフで思い出深いのは、箱根カントリー倶楽部の9番ホール、パー4だ。ティーショットを打つところの右に桜並木があり、フェアウェイの左側にはバンカーが3つ並んでいた。

長嶋さんは逆回転で右に打ち出したところ、みごとに桜の木に当たり、花がばらばらと散った。ボールは木の根元にボトッと落ちて、これはものすごく深いラフである。

僕は「今日は珍しく勝てそうだぞ」と思って、フェアウェイを歩いた。そうしたら長嶋さんが「キャディさん、3番アイアン」と言った。

写真=iStock.com/woraput
※写真はイメージです

ラフで3番アイアンはありえない。引っかかってボールは出ない。下手したら空振りだ。それが上からフッと叩いたボールが、フェアウェイに戻り、さらにコロコロと転がっていき、あわやカップに入るかと思われた。

さすがにカップには入らなかったが、距離はあと10センチ。OKパットとなり、なんと深いラフから一転、バーディーになったのだ。僕は結局、パーで負けて帰った。題して「桜散る散る事件」だ。

今でも桜の木が揺れて花が落ちてくる映像がフラッシュバックする。あのラフも、3番アイアンも、もしかしたら計算だったのだろうか。

集合時間の1時間30分前にいた車の正体

長嶋さんとのゴルフで思い出されることはまだある。冬のある日、8時にクラブハウス集合ということがあって、まあクラブハウス自体が開くのが8時だったから妥当な待ち合わせ時間だ。

江川卓『巨人論』(SB新書)

先輩より前に、時間前に行くというルールが巨人軍の掟だから、僕は7時に着いていた。寒いからさすがに僕より早く来ている人はいないだろうと思っていたが、もう誰かの車がとまっている。多分6時半には来ている。

で、8時になって車から出てこられたのが、長嶋さんだった。

長嶋さんは、僕の顔を見て一言、「遅い!」と叱られた。

「遅い。何時に来たんだお前。さっき見たら7時だろ。遅い」
「すみません、遅れました!」
「もう少し早く来い」
「はい、次からそうします!」

8時にしか開かないのに、7時で遅いって……しかも冬の朝にとは思ったが、巨人軍のルールからすれば長嶋さんの言う通りだ。僕は6時に行かなければいけなかったのだ。

関連記事
「10個のリンゴを3人で公平に分けるには?」有名な思考クイズをひろゆきが解いたら…答えが斬新すぎた
「フルボッコされ続けた黒歴史…」日米野球の屈辱晴らしたMVP大谷翔平の試合前の"名スピーチ"に抱く隔世の感
大谷翔平の超人的活躍は野球マンガを超えていた…私が日本のWBC 優勝を予想できなかった理由
なぜ「151キロのフォーク」を投げられるのか…WBC日本代表・山本由伸が語る「常識を変える投球術」とは
この時、芸に開眼した…失言で重職を追われた立川談志が、直後の高座で大笑いをさらった「伝説のあいさつ」