現役時代の長嶋茂雄さんはどんな選手だったのか。巨人軍OBで野球解説者の江川卓さんは「カンで動く人だと思われているが、実際は経験と計算で動く人だった。伝説的なプレーの裏には、長嶋さんなりの読みがあった」という――。

※本稿は、江川卓『巨人論』(SB新書)の第3章「巨人軍列伝」の一部を再編集したものです。

私が目撃した長嶋茂雄さんの本当にすごいところ

長嶋さんの天才的な読み。

長嶋さんは、相手の動きを読んで打つ人だったと思う。

バットを持つ巨人・長嶋茂雄選手=1966年7月(写真=時事通信フォト)
バットを持つ巨人・長嶋茂雄選手=1966年7月(写真=時事通信フォト)

当時は勘だと言われていたが、僕が思うに正しくは、勘ではなく、読みだ。有名な天覧試合のサヨナラホームランにしても、長嶋さんは絶対に計算している。

阪神のピッチャーは村山実さんで、村山さんはシュートを得意にしていた。そのシュートを、最後の打席で長嶋さんはホームランにした。当時の映像を見るにつけ、長嶋さんはわざと打席のベースに近いところに立ったのだと思う。

そこは、シュートが一番打ちにくい立ち位置だ。これで、村山さんはシュートを投げてくる。長嶋さんはそれがわかっているから、村山さんが投げた瞬間に左足を引いてホームランを打った。

難しいシュートをうまく打ったのではなくて、シュートを投げさせるという計算があったのだろう。だから長嶋さんは勘の人ではなくて、計算と読みの人だ。

監督時代にご一緒させていただいて、長嶋さんはそういう人だとあらためて思った。ある時、長嶋さんは僕にこう言った。

「江川、届くやつは全部打てるぞ」

記録にも記憶にも残るプレー

ありえない球を打つという意味では、新庄剛志さん(阪神など)やクロマティー(巨人)にもびっくりさせられたが、長嶋さんは異次元だった。

王さんがギリギリを見極めてフォアボールを選ぶのに対し、長嶋さんは全部打ちにいっていた。それでホームランにするのだから、やはり本人なりの計算があったに違いない。

村山さんの例ではシュートが来た瞬間に立ち位置を変えていたが、平松さんのカミソリシュートでは、投げた瞬間に握る位置をずらし、バットを短くして打っていた。

次に来る球を読んでいるのもすごいが、フォームを崩して臨機応変に打てるのがすごい。

技術も高いが、見ているほうを興奮させてくれるプレイングだった。