※本稿は、江川卓『巨人論』(SB新書)の第3章「巨人軍列伝」の一部を再編集したものです。
私が目撃した長嶋茂雄さんの本当にすごいところ
長嶋さんの天才的な読み。
長嶋さんは、相手の動きを読んで打つ人だったと思う。
当時は勘だと言われていたが、僕が思うに正しくは、勘ではなく、読みだ。有名な天覧試合のサヨナラホームランにしても、長嶋さんは絶対に計算している。
阪神のピッチャーは村山実さんで、村山さんはシュートを得意にしていた。そのシュートを、最後の打席で長嶋さんはホームランにした。当時の映像を見るにつけ、長嶋さんはわざと打席のベースに近いところに立ったのだと思う。
そこは、シュートが一番打ちにくい立ち位置だ。これで、村山さんはシュートを投げてくる。長嶋さんはそれがわかっているから、村山さんが投げた瞬間に左足を引いてホームランを打った。
難しいシュートをうまく打ったのではなくて、シュートを投げさせるという計算があったのだろう。だから長嶋さんは勘の人ではなくて、計算と読みの人だ。
監督時代にご一緒させていただいて、長嶋さんはそういう人だとあらためて思った。ある時、長嶋さんは僕にこう言った。
「江川、届くやつは全部打てるぞ」
記録にも記憶にも残るプレー
ありえない球を打つという意味では、新庄剛志さん(阪神など)やクロマティー(巨人)にもびっくりさせられたが、長嶋さんは異次元だった。
王さんがギリギリを見極めてフォアボールを選ぶのに対し、長嶋さんは全部打ちにいっていた。それでホームランにするのだから、やはり本人なりの計算があったに違いない。
村山さんの例ではシュートが来た瞬間に立ち位置を変えていたが、平松さんのカミソリシュートでは、投げた瞬間に握る位置をずらし、バットを短くして打っていた。
次に来る球を読んでいるのもすごいが、フォームを崩して臨機応変に打てるのがすごい。
技術も高いが、見ているほうを興奮させてくれるプレイングだった。