バットを持たずに打席に入った結果

長嶋さんは敬遠策をとられた際、バットを持たずに打席に入ったこともある。バットを持っていないのだから、ストライクを決めれば3球でアウトが取れるのに、結局相手ピッチャーはボールを4球投げて歩かせた。

「バットがなくても長嶋なら打ちそう」と、長嶋さんの何をするかわからない感じが恐怖心を与えたのではないかと思っている。

シーズン中にホームスチールを見せたこともある。足が速いのもあるが、脚力プラス読みがあってなせる技だと思う。

そういう意味では、やはり新庄さんも似ていたが、新庄さんの有名なホームスチールがオールスターでの出来事なのに対し、長嶋さんは同じことをシーズン中にやっていたのだからすごい。

恐れ多いことかもしれないが、相手として投げてみたいと思った1人だ。どこまで打たれるのか、とても興味がある。体の後ろに投げたとしても打ってくるんじゃないかと、冗談ではなく本当に思う。

巨人のキャンプでは松井秀喜さんに「松井、頭の上!」なんて言いながらとんでもなく高い球で打撃練習をさせていた。すごい教え方をするなとは思ったが、長嶋さんらしさと、松井さんを心から認めていることが感じられる場面だった。

野球選手がゴルフから学ぶこと

今では「イップス」(動作に支障をきたし、自分の思い通りの動きができなくなる症状)になりやめてしまったが、現役中からの趣味にゴルフがあった。

僕ははまるととことんはまるほうで、14日連続のゴルフを予定したことがある。うち1日は相手がキャンセルしたので結果的に13日になったが、僕を追っかけていた写真週刊誌の記者が14日目に「まいりました」と言ったのを覚えている。

「14日間のうち13日ゴルフ行く人は初めて見ました」そう言われた。彼らからすれば何かスキャンダルはないかと張っているわけで、それで2週間も毎日飽きずにゴルフを続けられては困っただろう。

ゴルフは、V9時代のセカンドで、僕が入団した時のコーチだった土井正三さんに言われて始めた趣味だ。今はどうなっているかわからないが、当時は、「野球を応援してくださる企業の方はみんなゴルフをしている。シーズンオフは、朝から晩まで一緒にゴルフをさせていただくことでいろんな企業の話が聞ける。いろんな学びがある」ということで、確かに学びになることが多かった。

当時、一番よくゴルフに行かせてもらったのは、長嶋さんかもしれない。長嶋さんとお付き合いのある企業さんたちとのゴルフサークルに、僕も何度も参加させてもらった。

長嶋さんの強さは読みにあると言ったが、それはゴルフでも実感させられた。長嶋さんはまず、びっくりすることにスコアカードも持たない。自分のスコアも相手のスコアもまったくメモを取らないが、お昼を食べていると「江川、あそこのパー3、ダボを打ってたよな」などと言う。

そんな調子で、18ホール終えても当然全部覚えている。緻密な読みと計算の前に、記憶力がものすごいのだ。