23年3月12日、SVB破綻の報を受けたFRBは、財務省、連邦預金保険公社(FDIC)とともに預金の全額保証をはじめとする、異例の対応策を発表した。銀行破綻に対しては、「間違った経営をした銀行と株主が、自己責任を負うのは当然」という考え方と「国民経済全体が預金の安全性と信頼性の上に立つので保護しよう」という考え方が対立する。共和党政権なら従来の保護上限、1口座につき25万ドルにとどめたかもしれない。私自身の生活感覚からすれば25万ドルでもかなり手厚い保護に思えるが、FRBは国民全体の安全性を優先したに違いない。
インフレにブレーキをかけなければ、国民生活に深刻な影響が
そして、23年3月21〜22日に行われた定例会合で、FRBは政策金利を0.25ポイント引き上げると発表。このまま利上げを続ければ、銀行の経営はますます苦しくなるが、インフレにブレーキをかけなければ、国民生活に深刻な影響が出る。そのジレンマの中で、FRBはインフレ阻止のほうに重点を置いたのであろう。
これは日本の金融政策問題とも深くかかわっている。欧米と異なり、日本はイールドカーブ・コントロール(YCC)で長期、短期の各金利を低く維持しているので、さしあたっての影響は限定的と考えられる。アメリカの銀行の保有債券評価損の累計額は約80兆円と前述したが、それに対して日本の銀行は1.5兆円と少ない。
しかし、資金循環統計で日本の「預金取扱機関」を見ると、総資産の2割弱を証券運用している。また、貸し出しを中心としたビジネスモデルに従って行動し、苦戦をしている日本従来の銀行ほど債券投資に依存する傾向が強いと考えられるので、注意深く見守らなければならない。さらに今、欧州の顧客企業がエネルギー危機でひどく苦しんでおり、企業や銀行の安全性も万全ではない。
アメリカが短期利上げに向かうとき、日本の金利を低く保つと円安が進行する。そのため、これから「日本の短期金利を上げろ」という要請が植田日銀総裁のもとに内外から集まる可能性は高い。そこで短期金利が長期金利を上回ることになれば、日本の金融市場もアメリカと同じ問題を抱えることになるはずだ。