減税とコロナ禍に対する政府支出で需要がつくり出され、それが物価上昇につながった。さらにロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁のため、エネルギーおよび原材料の供給が減少し、コストプッシュが物価上昇に追い打ちをかけた。

インフレを抑制するためには、金融引き締めを行わざるをえない。その手段が、FRB(連邦準備制度理事会)が22年3月から継続している金利引き上げである。当初0.25〜0.5%だった短期金利は徐々に上がり、1年後の23年3月には4.75〜5%となっている。

近年、低金利政策が続いたことで、銀行は資金運用による利益獲得が困難になり、ビジネスモデルが債券・証券保有へシフトしてきた。長期金利と債券価格は逆に動くシーソーの関係になっており、長期金利が下がれば長期債券の価格は上昇する。「今後、低金利水準が続くのであれば、債券を所有することで安定した収益が得られ、金利が一層下がれば債券価格まで上がって儲かる」と考えるのも無理な話ではない。

しかし、FRBによる政策に応じて金利が急上昇したあおりを受けて、22年から債券の価格は下落傾向が続いていた。債券を買いすぎた銀行が債券価格の下落により経営困難に陥るのは必至だ。金利上昇による保有債券評価損の累計額が約80兆円という新聞報道もある。

また、伝統的な商業銀行の収益モデルは「短期資金を調達し、貸し出しなど長期で運用して金利差を稼ぐ」というものだった。長期のほうが将来への不確定要素が多いので、通常は金利は短期よりも長期のほうが高かった。銀行は預金者からの短期借りを利回りのいい長期債や貸し出しで運用できる。

しかし、アメリカでは22年の3月に、2年国債利回りが10年国債利回りを上回る、つまり短期金利が長期金利の水準を上回る「逆イールド(利回り)」が起きていた。これでは長短金利差で利鞘を稼いできた銀行は収益が悪化する。

金利が上がったことでスタートアップ企業は資金繰りが苦しくなり、預金を引き出した。その資金の手当のため、SVBは値下がりした債券の売却を迫られ、結果、保有債券の一部売却による損失を18億ドル(約2400億円)計上すると発表した。

日本への影響は限定的になる?

その評価損を見て「現預金が引き出せなくなるのではないか」と不安が拡大。バンクラン(取り付け騒ぎ)に発展した。SVBの貸し出しや取引がIT関係に集中していたり、大口預金者が多かった影響もあり、発表の翌日だけで、SVBが預かる預金全体の24%にあたる420億ドル(約5兆6000億円)が引き出されたという。

信用不安には心理的な側面も大きく、国境を超えていく。SVBが破綻してから5日後の23年3月15日、かねてより不祥事から経営不安がささやかれていたクレディ・スイスに飛び火した。株価は一時31%下落。社債も売り込まれ、スイス国立銀行(中央銀行)から最大500億スイスフラン(約540億ドル)を借り入れることになった。