本を出版した翌週に11人の患者が来院

――2008年には、昭和大学附属烏山病院で成人を対象とした発達障害の専門外来を始められています。

【加藤】このときには「大人の発達障害」が深刻な問題であると社会でも認知されつつありました。大々的に告知はせず、病院のホームページに小さく掲示した程度でしたが、案内を出した翌週には11人もの新患がやってきました。

当時は私一人で診察をしていましたから到底対応しきれないと判断し、診察をすぐに完全予約制に変更しました。しかし、その予約もあっという間に埋まり、何カ月も先まで待つ患者がどんどん増えていったのです。中日新聞と朝日新聞に取り上げられた2010年には、1カ月で350件の予約問い合わせがありました。言葉は不適当ですが、「ブレイク」としか言いようがない状況でした。

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――現在はどんな状況なのでしょうか。

【加藤】「ブレイク」は現在も続いています。メディアでの露出に応じて上下がありますが、いまでも多くの問い合わせがあります。特に2012年にNHKの「あさイチ」で取り上げられてから、新患が大きく増えました。毎月25日から29日のどこかで翌々月分の予約を受け付けていますが、現在でも予約開始日の1日だけで1カ月分の予約が埋まってしまいます。

なぜ注目されるのに時間がかかったのか

――なぜ「大人の発達障害」は見過ごされてきたのでしょうか。

【加藤】それには精神医学の歴史が深く関わっています。

発達障害に関わる精神医学史を簡単に振り返ると、自閉症に関する症例が最初に報告されたのは1943年のことでした。症例を報告したのはレオ・カナーという精神科医で、彼は「早期乳幼児自閉症(early infantile autism)」という病名をつけています。カナーの論文では「生まれ持った性質である」ことが強調されているほか、原因は「冷たい家族」、とりわけ「母親」にある、とされていました。

これを受けて、ブルーノ・ベッテンハイム(ベッテルハイム)という研究者が、自閉症は母親に原因があるとして「母原ぼげん病」という名前をつけています。

――いまとなっては考えられない病名ですね……。