生きづらさを助長してしまう「過剰診断」

――受診する人が増えると、どんな問題があるのでしょうか。

【加藤】それは生きづらさを抱えた人が「生きづらいのは発達障害のせいだ」と思い込んでしまう危険性があるからです。

そもそも、発達障害の診断基準は、特定の症状があることと、その症状によって社会生活を送る上で「重篤な困難さ」を引き起こしていることの2つがあります。「自分は発達障害ではないか?」と疑う人のなかには、不注意による仕事での失敗や、対人コミュニケーションに問題を抱えて悩んでいる人たちが一定数含まれています。その際、発達障害が原因というケースもありますが、先述のように私の診療所に来る方の半数以上は発達障害ではありません。

加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)
加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)

そういった人たちは、生きづらさの原因について、自分の社会的知識や社会経験の不足、コミュニケーションスキルのつたなさにあることを認めたくなくて、「発達障害という病気が原因であってほしい」と考えているように見えます。

その結果、「自分は発達障害だから仕方がない」と社会的知識や経験を積むことをあきらめてしまうことで、より生きづらくなる恐れがあります。だから私は発達障害ではない人を発達障害だと診断してしまうことを「過剰診断」と呼んで批判しています。

いまでも「発達障害グレーゾーン」という言葉が流行していますが、それを受けて精神科を受診する人が増えることを、私は非常に問題視しているのです。(後編に続く

(構成=佐々木ののか)
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