男女平均の寿命は2070年までに4.2歳延びると見込まれている。すると、それに比例して年金給付額が自動的に膨張する。その負担増をどう公平に分担すればいいのか。昭和女子大学の特命教授・八代尚宏さんは「最新の年金財政検証で、厚労省は、年金制度は現状のままでも大丈夫と発表したが、試算の条件設定が不自然で信用ができるものではない」という――。
厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」ウェブサイトより
厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」ウェブサイトより

年金財政検証で発覚した緊急事態案件

私たち国民が老後生活を送るために不可欠な公的年金。国は、私たちが汗水流して得た給料から天引きしたお金などを管理・運用している。7月上旬、その年金の収支の健全性をチェックした結果が公表された。厚生労働省は「5年前の検証時と比べて健全化した」と胸を張り、大手メディアもその方向性で報じているが、どれだけの人がこの内容を信用しているだろうか。

前回検証と今回との間に、出生数は大幅に減少し、少子化はさらに深刻化した。春闘で名目賃金は高まったが、それはインフレの後追いで、実質賃金は2年以上もマイナスを続けている。それでも大幅な円安・株高で年金基金の運用利回りは好調のようだが、それが今後50年以上も本当に維持できるのか。

政府の年金財政についての見通しは「楽観的」な内容と毎回決まっている。本来、年金制度の抜本改革が必要との声が多いにもかかわらず、しなくても済ませるためにそうしている。

2070年までに男女平均の平均寿命は4.2歳延びると見込まれ、それに比例して年金給付額が自動的に膨張する。この負担増をどう公平に分担できるかが、年金財政検証の本来の目的だ。「年金制度は現状のままでも大丈夫」というのは、政府の大本営発表そのものであり、まったくもって信用ならん。筆者にはそう思わざるをえない。