実は、人間の脳は、未来を予測するよりも、予測できないことが起こったときに対応するほうが得意である。進化の長い歴史の中で、どんなに知恵を絞っても、未来を完全に予想することなどできないと思い知らされてきた。むしろ、事が起こったときに対処するほうが、心の持ち方としては適応的なのだ。容易に予想できない事象を、「ブラック・スワン」(黒い白鳥=黒鳥)という。ヨーロッパの人たちは、かつて白鳥と言えば白いものと考えていたが、実際には黒い白鳥もいた。専門家さえ、予想できないことがある。むしろ、完全に予想しようとすることのほうが不健全である。
日本人は、100%安心とか、100%安全という言葉が大好きだが、実際には白鳥は白いと思っていても、「黒い白鳥」が見つかったりする。この世の中は何事でも起こりうるのだと覚悟を決め、「根拠のない自信」を持って未来に向き合うのがよい。
すべてを予想することなど原理的に不可能なのだから、いたずらに不安にとらわれてはいけない。むしろ、何が起きても、驚かずに冷静に対応する心構えこそが必要。現代を生きるうえで、「黒い白鳥」を恐れてはいけないのだ。