「マルチタスク」がこなせない

特性⑥複数のことを同時にできない

一度に2つ以上の動作・活動を同時進行させることを「マルチタスク」といいます。仕事でも、複数の案件を抱えたり、いくつかの作業を一緒に行ったりすることはあるでしょう。ASDの人は、ひとつのことに集中するのは得意なのですが、マルチタスクをこなすことが困難です。たとえば、簡単な例でいうと、電話をしながらメモをとる、資料を読みながら書類を作成するといったことができない場合があります。

このような人は、おそらく子どものときも、授業中に先生の話を聞きながらノートをとったり、板書をノートに書き写したりすることが苦手だったに違いありません。先生の話に耳を傾けるとノートを書く手が止まり、書くほうに集中すると先生の話が頭に入ってこなくなるのです。

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もっともASDの人は、特に小児期には卓越した記憶力を示し、カメラで写真を撮るように、瞬時に板書を頭のなかにコピーしてしまう能力をもつこともあります。そうした人のなかには、板書は頭のなかに記録されているので、ノートは取る必要がなかったという人もいます。

ASDの人に作業や課題をやってもらうときには、複数のものを一度に渡すのではなく、ひとつを渡して、それが終わったら次を渡す、というふうにするといいでしょう。

物事の優先順位がつけられない

ASDの人がマルチタスクをうまくこなせない背景には、それぞれの作業や課題に優先順位をつけられないこともあげられます。複数の仕事のうち、どれが急ぎの案件なのか、どれが重要なのかがわかっていれば、おのずと優先順位はつけられます。しかし、それがわからないために、どこから手を着けてよいかわからなくなってしまうのです。ASDの人には、優先順位を明確に示した形で仕事を渡すことが解決策になります。

また、複数の動作を伴う作業の場合などは、マニュアルを示すことも有効です。

たとえば、4つの動作を伴う作業があるとして、本来は4つをどの順番にやってもよいのだとしても、ASDの人には、順番を決めた形でマニュアル化して示すのです。あらかじめ順番が決められていれば、ASDの人は戸惑うことなく、順番通りに作業を進めることができます。