高齢者にとって薬は毒になる可能性

薬の量を減らすことによって、寝たきりのお年寄りが歩くことができるようになった、というような医療現場からの報告もあります。

1990年代はじめ頃、「老人病院」といわれる長期入院型病院では高齢者の入院治療の定額制が実施されました(現在は廃止)。高齢者の療養型病床の入院患者には、どれほど投薬し点滴したとしても、病院には定額しか支払われないというシステムです。

つまり、病院側としては、一定額しか支払われない以上、できるだけ薬や点滴の使用量を減らさなければ収益が減ってしまうということを意味します。そこで、数値の変化を見つつ、徐々に使用量を減らしていく取り組みが始まりました。

結果、3分の1まで薬の使用量を減らすことに成功した青梅慶友病院では、寝たきりだったのが、歩けるまでに回復した高齢者が少なからずいたと当時の院長が講演会で語っていました。薬の過剰投与が、どれほど高齢者の体を蝕んでいたのかがはっきりと示されたわけです。

なぜ、薬の投与が高齢者にとっては思いがけないダメージになってしまうのか。薬というのは、口から飲んだ場合、胃腸で吸収されてしばらく経ってから、血中濃度がピークに達します。

和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)

その後、肝臓で分解されたり、腎臓から排泄されたりするなどして、徐々に濃度が下がっていきます。その濃度がおおよそ半分まで下がったところで次の薬を飲むと、また徐々に吸収されていくことで、血中濃度がおおよそ一定に保たれる。この半減する時間が8時間であれば1日3回の服用、半日であれば1日2回の服用、といったことになるわけです。

ところが、高齢になると腎臓や肝臓の働きは衰えてきますから、分解するにせよ排泄するにせよ、若い頃よりも時間がかかるわけです。さらに、投与される薬の数が増えれば増えるほど、その負担も増します。

ですから1日3回の薬を2回に減らすとか、その人の体力や症状に照らし合わせて優先順位を決め、薬の種類を減らす、といった判断が、高齢者の健康維持、体力回復のうえでも重要になってくるのです。

超高齢社会に求められるのは「総合診療」

今の時代に求められているのは、専門医よりも総合診療のできる医師です。消化器も呼吸器も循環器も診ることができて、さらに患者さんの心のケアにまで目を向けられる医師が理想です。

実際、総合診療というのが時代の潮流であることは間違いなく、イギリスでは総合診療医が医師全体の50%を占めています。

日本政府もまた、高齢社会における医療費抑制という喫緊の課題に取り組むべく動きました。2004年、小泉純一郎政権の時に臨床研修制度を必修化したのですが、その際に「スーパーローテート」というしくみをスタートさせたのです。

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