喜多川氏亡き今、検証報道のハードルは低くないが…

新聞やテレビの社会部にとっても、この問題を取り上げるハードルは決して低くない。忘れたい過去として告発を躊躇する被害者も多いだろうし、加害者が鬼籍に入っている以上、事実確認は簡単ではない。なかには、ジャニー氏の性的虐待を「被害」として認識していない証言者も少なくない(それは性的虐待における典型的な「グルーミング=手なづけ」だと捉えられるが)。さらに、そうした調査報道には時間も人員も要する。

しかも、ジャニー氏の性的虐待は刑事事件として処理される可能性は低い。ジャニー氏が亡くなっているため、起訴されることはないからだ。そして2017年に強姦罪が強制性交等罪に改正されるまで、男性は性犯罪の被害者にはなりえなかった。さらに時効の壁もある。

しかし、立件されないから、あるいは時効になっているから問題はない──ということにはならない。この性的虐待は、たとえ他の社員が関わっていなくとも、株式会社の社長が自社の業務に携わる未成年者に対しておこなった行為だからだ。

撮影=松谷創一郎
ジャニーズ事務所本社

ジャニーズは企業コンプライアンスとして過去を清算すべき

現在のジャニーズ事務所の社長は、ジャニー喜多川氏の姪である藤島ジュリー景子氏だ。ジャニー氏の性的虐待が事実認定されていた2004年、ジュリー氏はすでに取締役副社長だった。状況的にも同社を世襲することは既定路線であり、実際にそうなった。

だが、この2004年以降もジャニー氏の性的虐待行為は続いていた疑惑がある。BBCや『週刊文春』の取材でそのケースが見られるからだ。前者の性的虐待未遂は被害者が16歳だった2007~2008年、後者は被害者が15歳だった2012年3月が最初で、それ以降も15~20回あったと証言している。

それらが事実であるならば、ジャニーズ事務所はジャニー氏の性的虐待が裁判で事実認定された以降も、それを防止する策を講じていなかったことになる。裁判では、ジャニーズ事務所が原告だったにもかかわらず。

同社の業務に携わる未成年者が被害者である以上、これはけっしてジャニー喜多川氏のプライベートの問題として済まされる問題ではない。あくまでもジャニーズ事務所による組織的な性的虐待疑惑であり、現在も同社はそれに正面から向き合っていない。