日本人には資本主義の基礎が欠如している

「それで何が困るんだ? 気を利かせてくれるフォロワーがいるのは良いことではないか?」という声も聞こえてきそうですが、先ほども述べた通り、全体最適を考えるリーダーにとっては、チームが使用できる資源(人、物、金、時間、場所、人間関係ネットワークなど)が、勝手にフォロワーによって取り崩されたら、全体最適化が難しくなる可能性があります。

フォロワーの個人的判断によって報告時期が遅れたために指揮官として決断するべきタイミングを失したり、フォロワーが気を利かせてリーダーに言わずにアドバイス的な指示を該当部署にしたためにその部署が気を利かせ過ぎて物や装備品などを移動させていたり、その結果、該当部署のメンバーの働ける時間が少なくなったりなど、チームとして最大限の効果を得ることができなくなるかもしれないのです。

こうした問題点は、資本主義の基本的な精神、つまり所有権がはっきりしている資本を元手に、最小限の労力で最大限の効果を得るという精神が日本人に欠如していることも原因のひとつだと考えられます。その根本をたどれば、学校教育の段階で子供たちに民主主義や資本主義の基礎を学ばせていないという日本の構造的な問題に行き着くのですが、それについてはまた章をあらためて述べたいと思います。

日本では褒められても欧米社会では“犯罪行為”に

上司の決定権を簒奪するという行為は、実は欧米社会では“犯罪行為”にも該当します。

これは欧米社会において民主主義・資本主義の精神が社会の土台になっているからこそのことであり、日本社会ではこの種の行為が犯罪であるという認識はまずありません。むしろ「真面目」で「優秀」な部下が「気を利かせてくれた」結果として「上司の決定権簒奪」が起こったとしても、気を利かせてくれた部下を褒めこそすれ、その部下を叱責しづらい状況にあります。

小川清史『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く「作戦術」思考』(ワニブックス)

たとえ叱責したとても、部下は上司から叱られた理由がわからず、チーム内の不満だけが高まる結果になるかもしれません。実は私にも叱られた理由がわからなかった経験があります。

また、困ったことに、日本型組織の上司のなかには、部下に対して「もっと気を利かせろ」「そんなこと、俺にいちいち確認とるな」と叱る人までいます。そういう上司が少なからず各組織にいることから、部下も「こんなものをいちいち上にあげて上司に迷惑をかけちゃいけない」という意識になってしまい、(実は上司の決定権を簒奪してしまっているけれど)「気を利かせられる部下=優秀な部下」という認識がその組織に、もしくはそもそも日本社会全体に広がってしまっているのではないかと思います。

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