『ロボットは万能ではない』

「導入にあたってマニュアルはありますが、それぞれの店舗が独自のアレンジを加えるなど、店舗の特徴や業態ごとに設定しています」

例えば、ベラボットは秒速10~120センチの間で走行スピードを変えられる。遅すぎると料理が冷めてしまい、速すぎると汁物がこぼれてしまう。すかいらーくでは料理によって速度を設定している。さらに、ドリンクバーの周囲など人通りの多い場所を通らないようにするなど、店ごとにセッティングも変えているという。

このためベラボットの導入時には「ロボット導入インストラクター」が来店する。新設した専門職である。その仕事はロボットの設定だけではない。ガストでの店長職も長く経験した花元さんは「ロボットに頼りすぎてはいけないということも伝えてもらっている」と話す。

「いつも同じ時間に来店されて、同じ席に座って、同じ注文をする方がおられます。そういうお客さまは、スタッフとのコミュニケーションも楽しみにしています。ベラボットの導入は、そういったお客さまとの触れ合いを切り捨てるわけではまったくないのです。ベラボットに給仕長は務まらないでしょう」

あくまで店舗運営の中心はスタッフであり、ベラボットはフロアサービスの一部なのだ。そのうえで各店がうまくベラボットを活用してほしい、という考えなのだ。

サービス業に欠かせない存在になる

今後は、少しの段差でも走行できなくなるロボットの導入を前提に、店の改装時にはフルフラット化や調度品の再配置を進めるそうだ。すでにグループを挙げてロボットを前提にしたオペレーションに移行したといっていいだろう。導入店舗のスタッフからも「ベラボットなしでどうやってオペレーションしていたか、もう想像できない」という声も出ているという。

高級フレンチでは、メートル・ド・テル(給仕長)はシェフ(料理長)と同格と言われるほど大切な存在。もちろん味も大事なのだが、顧客と接するフロアスタッフのサービス次第で、店の印象は左右される。スマイル0円ではないけれど、ちょっとした心配りがあれば食事の時間は一層楽しくなるし、不満を感じさせてしまったらせっかくの料理も台無し。いくら高性能で可愛くても、ロボットに臨機応変の接客は望めないだろう……話を聞くまで私はそう考えていた。

ロボットの導入は、うまくいけば業務改善とサービス向上の一石二鳥になる。コストが見合えばためらう理由はない。現在はすかいらーくグループが先行しているが、配膳ロボットが当たり前になる日は近いかもしれない。

お客はさまざまで、コミュニケーションを期待する人も、非接触を望む人もいる。個別最適のおもてなしを実現するのは、やはり人間の経験と笑顔に違いない。今後、ロボットはそれを支えてくれる重要な存在になれるということなのだろう。

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