決定的出来事

2002年。夫婦仲はますます冷え切り、40代に入った妻は度々、「お話があります」と言っては、狩野さんに対する不満をつらつらと紙に書いて渡してきた。

「私も同じくらいの不満を妻にぶつけることができました。でも、そんなことをしても夫婦関係が良くなるとは到底思えません。私が妻に不満を告げたことがほとんどないのは、そんなことをしても変わらないと思っていたからです」

何度か話し合いをしたが、狩野さんが声を荒らげれば「怖い」と泣く妻にそれ以上話はできない。

・話し合いを避けてきたのは、価値観や考え方の違いが明確になるのを恐れたから。違いが決定的になれば結論は離婚しかないと思っていた
・子供たちにはまだ両親が必要だと思う
・離婚を選ぶならそれは仕方ないが、離婚するにしても子供たちのために同居は続ける方法を考えてほしい
・同居も嫌なら自分が家を出る

などを狩野さんは書面にまとめ、妻に渡した。

その数日後、7歳の長男と4歳の次男が寝静まった夜、1階に降りると、ダイニングテーブルに離婚届があった。「ああ離婚ですか」と狩野さんは思ったが、妻は言った。

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「この前あなたと本音で話し合って手紙も読んで、気持ちの整理がつきました。その上でもう一度あなたとやり直したいんです」

その瞬間に狩野さんは、「ああ、この女とは絶対に分かり合えない」と確信。

「『やり直そう』と言いながら、『離婚届を出す』という、その神経が私には分かりません。この日から妻は、私の中では完全に他人になりました」

狩野さんは離婚届に署名し、「印鑑は認印でいいはずだから適当なのを押しとけや! 親権なんざくれてやるよ。紙にどう書いてあろうが俺があいつらの父親であることに違いはねえ。保証人はアンタの周りにはいくらでもいるんだろうから、適当な人に頼んで署名してもらってくれ!」とまくし立て、自室に戻った。

この日、狩野さんは自分の心の中で約14年後に次男が高校を卒業したら離婚することを決意した。その判断に妻との改めての相談はなかった。