おしゃべりが認知症の進行を緩める

どうやって頭と体を使うのか、もう少し話を続けましょう。働くことやボランティアがいいのは、人と話す機会が増えるからです。とくにおしゃべりは、相手によって話題がどんどん変わりますから、頭をよく働かせることになる。前頭葉が刺激されるわけです。

さらに、声を出すのもいいようです。趣味の詩吟を続けている認知症の患者さんを何人か診てきましたが、あまり進行が目立たない。そう考えると、カラオケも効果があるように思います。声を出すことで全身を使います。それに、なによりも楽しい。カラオケ好きな人なら毎日歌いたくなるでしょう。

シスター・メアリーも、毎日、規則正しい生活を送っていました。定期的に楽しいことをして、習慣にできれば、ずっと続けられます。続けることで効果が出てくるのです。

もうひとつ、料理をすることも効果があります。

料理をしてみるとわかりますが、いろいろな作業を併行して進めなければいけません。食材を切りながらみそ汁の鍋を火にかけ、炒め物の準備をすると同時に、冷凍食品を電子レンジで解凍するなど、頭と体をめまぐるしく働かせることになります。

献立も、毎日同じでは飽きてきます。違うものを食べたくなりますから、自然に工夫するようになります。料理をするためには、食材を買いに行くでしょう。店内を歩き、品物を選ぶだけで、頭と体を使います。日々の生活のなかで、自然に認知機能を高めることができるのです。

「脳トレ」をやるならカラオケに行こう

反対に、ほとんど無意味なものがあります。

脳機能を落とさないためにと「数独」「100マス計算」など、「脳トレ(脳力トレーニング)」本を開いているおトシヨリを見かけますが、認知機能の低下予防には、あまり効果はありません。

和田秀樹『90代になっても輝いている人がやっているトシヨリ手引き』(毎日新聞出版)

たしかに、毎日「数独」や「100マス計算」を繰り返しやれば、練習した課題のテストの点数は上がっていきます。しかし、同じ人に、別の認知機能テストをさせてみると、まったく点数が上がらないのです。腕の筋肉を鍛えても脚の筋肉がつかないのと同じことです。

実際に、欧米の調査研究で、「脳トレ」をいくらやっても、ほかの認知機能にはまったく波及しないことが、実証されています。与えられた課題のトレーニングになるだけで、脳の認知機能はなにも変わらなかったということです。

「脳トレ」をするよりも、カラオケで歌ったり料理をしたりと、日常生活で行うことを楽しく続けるほうが、よほど効果があるということです。

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