※本稿は、和田秀樹『90代になっても輝いている人がやっているトシヨリ手引き』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。
脳の萎縮は40代から少しずつ始まっている
人はなぜ認知症になるのでしょうか。答えは、シンプルです。年をとるからです。
年をとると髪が薄くなったり白髪になったり、肌にはシワやシミも増えます。同じように、脳も縮み、傷んできます。実際、多くのご遺体を解剖してわかったことですが、85歳以上のすべての人の脳に、アルツハイマー型の認知症の変性がありました。
症状は表れるけれど、あくまで老化現象のひとつであって、病気ではありません。歳を重ねていけば、誰でも認知症になるのです。
みなさんが認知症を怖いと思うのは、ある日突然、「自分や家族のことがわからなくなってしまう」と誤解しているためではないでしょうか。
でも、ちょっと考えてみてください。「朝起きたら、自分の髪の毛が全部なくなっていた」などということは、起こりません。だんだんと抜けて、薄くなっていくものです。
認知症も同じです。とてもゆっくりと進行していきます。じつは、脳の萎縮は40代のころから少しずつ始まっていますが、みなさんが気づいていないだけです。
そのまま20~40年かけて、徐々に認知症が進んでいくわけです。
認知症を治す薬はない
認知症は、早期の発見が大事だとされています。しかし、今はまだ認知症を治す薬はありません。認知症の症状を抑えたり、進行をゆるやかにしたりする薬はありますが、「少しは効果がある」というレベルのものです。
私は、認知症が心配になっても、すぐ病院には行かないほうがいいと思っています。今の世のなかでは、認知症だと診断されると、すぐに判断能力を疑われてしまいます。もし働いていれば役職から外されたり、仕事を任されなくなったりと、働く機会を失ってしまうかもしれません。
周囲の人も、とたんに態度を変えたりするでしょう。だったら、急いで医者に診てもらう必要はないと思います。大事なことは、認知症と診断されることではありません。認知症の進行を、少しでも遅らせることです。
では、どうすればいいのか。認知症の進行を遅らせる最良の方法は、頭を使い、体も使い続けることです。
茨城県の認知症患者から学んだ「認知症を遅らせる」ヒント
その根拠となる例をお話ししましょう。私は、東京・杉並区の浴風会病院に勤務しながら、月に2回ほど、茨城県鹿嶋市でも認知症の患者さんを診ていたことがあります。そのとき気づいたのは、鹿嶋市の患者さんのほうが認知症の進行が遅いということでした。