製造メーカーに事故車両を検証させていいのか

事故車両を製造したメーカーに持ち込まれて検証が行われた場合、もしバグが原因であれば莫大ばくだいな損失を負うことになる製造メーカーが、車のコンピューター上に残されたバグの痕跡を正しく客観的に分析・保存するだろうか。近時、自動車へのEDR(Data Recorder)事故情報記録装置)の普及、義務化などが進んでおり、一定範囲では客観的な記録の保存が進んでいるが、すべての事故原因に関するデータとなると、実際のところ難しいだろう。

警察は製造メーカーの検証結果に基づき、「車には不具合はなかった」とする方向で証拠を固めてしまう。検察も、警察が特定した事故原因に基づいて、自動車運転過失致死傷罪で起訴することになる。

「加害者」とされた運転者は、「車の不具合」を訴えると遺族からの強烈な反発・憎悪にさらされることになる。尊い肉親を一瞬のうちに事故で失った遺族にとって、加害者は憎んでも憎み足りない存在だ。「車の不具合が原因で自動車メーカーが加害者」ということが証明されれば別だが、そうでない限り、運転者が罪を免れることは社会的には許容される余地はない。

多くが「アクセルの踏み間違い」と認定されている

しかし、現在の日本の交通事故の原因解明のシステムでは、もし、真の事故原因が自動車の不具合だったとしても、それが立証される可能性は極めて低いというのが実情だ。

実際に、自動車の暴走による死傷事故で、運転者が、一貫して「車に電子系統の異常が起き、ブレーキが効かなくなった。アクセルを踏んでいないのに加速した」と、自動車の不具合を主張したが、捜査の結果、暴走原因は「アクセルペダルの踏み間違い」と認定され、有罪判決を受ける、という事例は、これまでにも、相当数発生している。

それらの事故の真の原因がどうであったのか、本当に「車の不具合」であるのか否かはわからない。しかし、一般的に言えば、自動車のコンピューター制御にはバグの可能性はゼロではない。客観的には、車の不具合による事故である可能性も決してないわけではない。問題は、警察の交通事故捜査において、そのようなコンピューターのバグによるものを含め車両の不具合の有無が、客観的に解明されていると言えるかである。