加害者がつくり出された「白老バス事故」

では、刑事裁判に「最後の救済」を託すことができるかというと、それも難しい。日本の刑事裁判では、「疑わしきは被告人の利益に」という原則が守られているとは言い難く、検察官の主張どおり有罪判決が出される可能性が高い。

こうして、自動車の不具合による暴走事故の「被害者」であったとしても、自らの運転の誤りによって人を死傷させた犯罪者として裁かれ、刑罰に処せられるということも、現実に起こり得ないわけではないのである。

二〇一三年八月に北海道白老町しらおいちょうの高速道路で発生した大型バス事故では、事故直後から、運転手が一貫して「突然ハンドルが操作不能に陥った」として自己の過失を否定し、自動車の不具合が事故原因だと主張していたのに、全く聞き入れられず、運転手が自動車運転過失致死傷罪で起訴された。

警察の事故原因の特定は、事故直後に、事故車両の製造メーカーの「三菱ふそう」の系列ディーラーの整備工場に事故車両を持ち込んで行われた検証の結果に基づくものだった。

「事故原因は車両にはない」から一転、無罪に

刑事裁判では、検察官は、「ハンドルの動力をタイヤに伝える部品に腐食破断が認められるが、走行に与える影響は、全くないか軽微なものに過ぎないから、事故原因は車両にはない」と主張したが、その後、弁護側鑑定など、真の事故原因を明らかにする弁護活動が行われた結果、運転手の主張が正しかったことが明らかになり、「事故原因は車両にある。運転手には過失はない」とする一審無罪判決が言い渡されて確定した。

この件については事故後の車両の検証結果に沿う証言を行った三菱ふそうの従業員の虚偽供述のために不当に起訴されたとして同社に損害賠償を求める民事訴訟、検察官の不当な起訴に対する国家賠償請求訴訟なども提起された。

この事故の刑事裁判の過程で事故原因が車両の側にあることが明らかになったことを受け、二〇一六年七月には、国交省が、事故車両と同型のバスで「車体下部が腐食しハンドル操作ができなくなる恐れがある」として使用者に点検を促し、その結果一万三六三七台中八〇五台で腐食があることが分かった。二〇一七年一月に、八〇五台について「整備完了まで運行を停止」するよう指示が出され、三菱ふそうは、同年二月にリコールを届け出た。