被害者なのに加害者になってしまう恐ろしさ

日本では、重大な交通事故も含め、事故の原因究明に関するシステムが、あまりに貧弱であり、しかも、その原因究明を製造メーカー等の当事者から切り離して行うという原則すら確立されていない。

警察の事故原因の特定に基づき運転手の過失で起訴された後に、刑事裁判で、事故車両の不具合が真の原因であったことが判明した白老バス事故と同様に、二〇一六年一月一五日に発生した軽井沢バス事故でも、運転手の操作ミスを前提にバス運行会社の社長らの刑事責任が問われていることに多くの疑問があり、自動車の不具合の可能性も否定できない。

これらの事故についてこれまで指摘してきたことからすると、日本でのバス事故の原因究明と責任追及の在り方は、制度上大きな問題があると言わざるを得ない。

警察の事故原因の特定が誤っていた場合、自動車運転過失致死傷罪に問われる運転手にとっては、「被害者なのに加害者として非難される冤罪えんざい」となる。白老バス事故の場合がまさにそうである。しかし、実際に、その冤罪を晴らすことが容易ではないことはすでに述べた通りだ。

それに加え、もう一つ重要なことは、貸切バス事故のような社会的影響の大きな事故で、真の事故原因が明らかにならなかった場合、それによって同種事故の再発防止に向けての重要な視点が欠落することになるということだ。

ツアーバス
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規制緩和で、古い車齢のバスが使い放題に

軽井沢バス事故についての再発防止策は、「運転未熟のために操作を誤り、ニュートラルで走行したために、速度が制御できない状況となり、事故に至った」という人的事故原因を前提に、「安全対策装置の導入促進」のほか、運転者の選任、健康診断、適性診断及び運転者への指導監督の徹底など、運転手の運転技能、運転適性の確保を中心とする対策を講じるものだった。

しかし、もし、事故原因が車両の方にもあった場合には、再発防止策は大きく異なり、車両自体の危険性への対策を含むものになっていたはずだ。

車両自体の危険性に関して見過ごすことができないのは、バスの「車齢」の問題である。軽井沢バス事故の事故車両は、二〇〇二年登録で車齢一三年、部品の腐食破断が原因とされた白老バス事故の事故車両は、一九九四年登録で、事故時の車齢は一九年だった。

過去、貸切バス事業が免許制であった時代には、新規許可時の使用車両の車齢は、法定耐用年数(五年)以内とされており、少なくとも最初から古い車齢のバスを使用することは規制されていたが、二〇〇〇年法改正による規制緩和で、車齢の規制は撤廃された。古い車齢のバスも自由に使用できることになった。