「せっかくの平和運動が汚された」という主張も

さらに彼らは平和宣言の賛同者に対しても、「抗議集会にはAfDばかりでなく、ネオナチや陰謀論者も来る。そんな集会に行って良いのか?」といった牽制を試みた。こうなると、当然、ひるむ人も出てくるはずだった。

はっきり言って、これら一連の動きは言論の自由を侵害するものだと私は思う。ただ、ドイツにはそう思わない人もたくさんおり、たとえばドイツ福音主義教会の元議長、マルゴート・ケースマン氏(署名をした69人の有名人のうちの一人)はインタビューで、ヴァーゲンクネヒト氏の平和宣言には全面的に賛成だが、AfDが同じ主張をしてきたことは非常に不愉快だと語っていた。

AfDは反社ではなく、ドイツ基本法(憲法に相当)で認められた政党である。だから私には、彼らが平和運動に賛同してはいけない理由が未だにわからないが、ドイツで最高峰にある知識人の一人が、はっきりとそう言ったのには少なからず驚いた。さらに氏は、「彼らはこの運動を乗っ取ろうとしている」、「ナショナリズムを唱える者が平和を願うのはおかしい」と主張。要するにAfDの賛同で、せっかくの平和運動が汚されたわけである。教会がいつも言っている「対話」や「寛容」は、いったいどこへいってしまったのか?

このような発言により、平和デモに参加しようと思った人が、「私はAfDとは違う」と言い訳をしなければならないような状態が作り上げられている。これこそ異常なことだと感じる。

平和を訴えたら右翼で、戦争擁護は左翼?

さて、2月25日当日、ベルリンはときどき強く雪の降りしきる悪天候だった。この時点で、すでに署名の数は60万を超えていた。ブランデンブルク門の前の広場に集まった人は、警察発表によれば1.3万人(ヴァーゲンクネヒト氏は景気良く5万人と発表)。

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国旗や、「Z」など戦争のシンボルの持ち込みは遠慮してほしいという主催者側の要望も守られ、あちこちで掲げられていたのは、「武器供与よりも外交を」とか、「エスカレーションではなく対話を」などと書いた手作りのプラカードや、鳩の絵の旗など。皆、寒空の中、登壇者の話を静かに聞き、何度も大きな歓声を送っていた。まさに平和集会だった。

この日のヴァーゲンクネヒト氏のスピーチはここから確認できる。風の冷たさと、人々の熱気、そして氏の情熱が伝わってくる映像だと思う。

ヴァーゲンクネヒト氏はこのスピーチの中で、「当たり前のことだが、もう一度言う」として、「ここは、ネオナチや帝国臣民の人たちの来るところではない。しかし、平和を願う人たちは皆、大歓迎だ!」と強調。AfDを締め出そうとしたケースマン氏との対比が顕著だった。

そして聴衆に、「平和を呼びかける運動が、いったいいつから右(として批判されるように)になり、戦争に酔いしれることが、いつから左になったのだ」と問いかけ、「ドイツで行われている(AfDと同じだからダメという)レベルの低い議論には、もううんざりだ」と引導を渡した。