超攻撃的で討論では絶対に負けないカリスマ

ドイツのザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏は、左派党所属の人気女性政治家。知的で、美人で、左派・右派を問わず人気があり、しかも、討論になると超攻撃的で絶対に負けないので、トークショーでは引っ張りだこ。ちなみに昨年9月の国会スピーチのビデオは、6カ月でYouTubeでの閲覧が300万回を超えた。おまけに“いいね”が10万以上もついている。一種のカリスマ的存在と言えるかもしれない。

ウクライナ戦争の和平交渉を求めるデモを開いたザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏(写真左)とアリス・シュヴァルツァー氏=2月25日、ベルリンのブランデンブルク門前
写真=dpa/時事通信フォト
ウクライナ戦争の和平交渉を求めるデモを開いたザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏(写真左)とアリス・シュヴァルツァー氏=2月25日、ベルリンのブランデンブルク門前

ただ、あまりにも自分の意見をはっきりいうため、左派党の幹部とは折り合いが悪い。左派党とは、元を辿れば東ドイツの独裁政党につながるため、国会で議席を持つ政党の中では一番左に位置する政党だが、ヴァーゲンクネヒト氏は今や完全に、この自分の巣からはみ出してしまった。「出る杭は打たれる」の典型である。それもあり、ここ数年は個人的な政治活動が多く、自分の政党を立ち上げるのではないかというのがもっぱらの噂だ。

そのヴァーゲンクネヒト氏が、現ドイツ政権のウクライナ政策に抗議して立ち上がった。以前から、ウクライナ戦争の終結が戦闘で決まることはあり得ず、一日も早く和平交渉に入るべきだと主張してきた氏であるが、この度、ショルツ首相が攻撃用戦車レオパルト2のウクライナへの供与を決めたことで、堪忍袋の緒が切れたらしい。

武器供与の中止を求める「平和宣言」を発表

現ドイツ政府のウクライナ政策はどうなっているかというと、社民党のショルツ首相の真意はさておくとして、公式には全面支援だ。与党の一つである自民党は強硬な戦車供与派だし、もう一つの与党である緑の党も、これまで40年間、徹底して貫いてきた平和主義をかなぐり捨てて、なぜか突然やはり戦車供与派。今では強硬派の最前線で勇ましく徹底抗戦の旗を振っており、そのうち戦闘機供与を言い出しても不思議ではない勢いだ。

ショルツ首相にはそんな内圧のほか、NATOやEUからの外圧もあり、目下のところ武器支援、資金援助以外に道はない。ウクライナを「"必要な限り"全面的に支援する」とのことだ。

そんな中、ヴァーゲンクネヒト氏は2月10日、往年のウーマンリブの闘士アリス・シュヴァルツァー氏と共同で、武器供与の中止を求める「平和宣言」を発表。「ウクライナでの殺戮を長引かせることが、われわれのウクライナに対する連帯であるはずがない」として、オンライン署名運動を開始した。

平和宣言の内容をかいつまんで言えば、「ウクライナがいくら西側から武器を与えられても、ロシアという核保有大国に勝利できるはずはなく、終戦は交渉でしかありえない。それなら武器の供与はただちに中止し、今すぐ交渉に舵を切るべきだ。その機会を逃せば、第3次世界大戦、それどころか核戦争が起こる危険がある」というもの。