100人に訊けば100人が同意する「善意」の恐るべき影響
「私たちは子供たちのことを、大人と同等の権利と尊厳を持つ者としてみなしながら、しかし肉体的にも精神的にも経済的にも弱い存在だから、しっかりと養護しなければならない」――という、現代社会では100人に聞いて100人が賛同する「ただしさ」のせいで、私たちは子供を持つことに「恐怖」や「不安」ばかりを覚えるようになってしまい、子供を持つことを忌避するようになった。
私たちが善かれと思って高めてきた「ただしさ」こそが、私たちの社会から子供を失わせてきた。私たちがなんの疑いもなく内面化してきた倫理観や道徳観の軌道修正をしなければ、たとえどれほど巨額のリソースを投じた少子化対策が講じられたところで、親たちの「産むのが怖い」という“気持ち”を大きく変えることはできないだろう。
繰り返し強調するが、昭和の時代――あるいはもっとさかのぼって大正時代や明治時代――は、いまよりずっと貧しく、子育ての環境もずさんだったし、教育投資も乏しく、衛生状況も悪く、安全も安心も程遠かったし、子供の人権意識などいまとは比べるまでもない。
だが子供はたくさんいた。
子供を持つことが「怖くなかった」からだ。