新社長は“マルエフ”ヒットの立役者

その一つの成果として、スーパードライが生み出された。樋口氏は、単なるコストカットではなく、より良い満足度を消費者に届けるために必要なサプライチェーン・マネジメント体制も確立し、次世代に引き継いだ。それがスーパードライの差別化を支え、より多くの需要を獲得した。

さらにアサヒビールは、マーケティングのプロである松山氏を登用して“マルエフ”などの需要を創出した。松山氏はスーパードライのフルリニューアルも行い、一時キリンに追い抜かれたシェアを取り戻した。松山氏はスーパードライのブランド競争力を足掛かりに、デザインや味わいを大胆に変え、より大きな満足度を消費者に提供した。その成果として、アサヒグループホールディングスは値上げによってコストプッシュ圧力に対応しつつ、業績は底堅く推移している。

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今回のトップ人事は「古い雇用慣行」との決別か

今回、アサヒビールは松山氏に経営の意思決定をゆだねる。これまでのわが国の働き方では、加速度的・かつ非連続的な事業環境の変化に対応することは難しくなっているとの危機感は強い。アサヒビールは、過去の発想にとらわれない人材をトップに登用することによって、より迅速に高付加価値商品を生み出し、顧客に提供して収益力を高めようとしている。ある意味、今回の同社のトップ人事は、わが国の雇用慣行との決別にも見える。

長い間、わが国では終身雇用と年功序列の雇用慣行が続いている。1950年代半ば以降の高度経済成長期のように高い経済成長率が続く状況であれば、こうした雇用慣行が企業の事業運営にとって問題になることは少なかった。しかし、需要が飽和して経済成長率が停滞すると、業績拡大ペースも鈍化する。

過去の発想に基づいた事業運営体制の継続が、企業の成長を支えるとは限らない。わが国経済の現状を基に考えると、終身雇用や年功序列の雇用慣行の下、多くの企業で「前例がないので、新しい取り組みに着手できない」という現状維持バイアスが組織心理に浸透した。