自己変革を加速する決意を示した

企業が新しい発想を組織に取り込み、その実現を通して新しい需要を創出することは一段と難しくなり、意思決定のスピードは遅れた。結果的に、半導体やデジタル家電などの分野では台湾、韓国、中国など新興国企業の技術面でのキャッチアップと価格競争力の向上に対応することが難しくなった。

アサヒビールの今後の事業展開も楽観はできない。2019年、同社は1兆2000億円を投じてオーストラリアのビールメーカーを買収するなど海外での買収戦略を強化した。ただ、世界的なインフレの進行によるコストプッシュ圧力、金利上昇による株価の下落などのリスク上昇を背景に、のれんの減損リスクなど業績の不透明感は高まっている。

その状況下、アサヒビールはこれまで以上に新しい取り組みを増やしてスーパードライに続くヒット商品を生み出さなければならない。今回のトップ人事によってアサヒビールは自己変革を加速させる決意をステークホルダーに示したともいえる。

5%の賃上げで従業員のモチベーションも上げる

アサヒビールの社長交代は、わが国のより多くの企業が大胆に、新しい発想の実現に取り組む呼び水になるだろう。足許、同社は物価高止まり環境下で従業員の生活を守るために5%程度の賃上げを検討している。その上で注目したいのは、新しいトップの下で個々人の実績(実力)に応じた賃金制度が策定、実施され、人々のモチベーションがさらに高まるか否かだ。

企業が成長を実現するためには、新しい需要の創出が欠かせない。その源泉は、①組織の中にはなかった発想を持ち込む、②最先端の理論を実践する、さらには、③誰も思いつかなかった大胆な発想の実現を目指す――の3つに分けて考えるとわかりやすいだろう。その上で、経営トップは既存の製造技術などと新しい発想の結合に取り組む。新しい商品が生み出され、消費者に受け入れられることによって企業は成長する。