ヤフノスキ氏は「ロシアは開戦時、稼働できる戦車を約3000両保有していたことから、その半数を失った可能性が高い」と指摘した。

大規模な喪失により、ロシアの攻撃ペースが鈍化するのではないかとの読みも出ている。同誌は、「ウクライナ戦で優位の確保に失敗したロシアの戦車だが、装甲車両による満足な支援なしには、ロシア軍が再び大規模な攻勢をかけることは困難となるだろう」との見通しを示している。

ロシア紙「月20両しか戦車を作れない」

ただしこの事態は、ロシアが直ちに戦闘不能になることを意味するものではない。ワシントン・ポスト紙は、「喪失にもかかわらず、ロシアは相当な数の旧型戦車を保有しているため、戦力を維持することが可能とみられる」と分析している。

とはいえこのままでは在庫は尽きる。戦闘継続のためには戦車の増産が欠かせないが、経済制裁下のロシアは自動車の製造にも困窮している。戦車の製造ペースは思うように向上しないのが現状だ。

ワシントン・ポスト紙は国際戦略研究所のジョン・チップマンCEOの発言を引用し、「工業生産は継続しているものの依然ペースが遅く、ロシアは消耗を補塡ほてんするために、代わりに古い貯蔵兵器に頼らざるを得ない」と説明している。

エコノミスト誌は、ロシアで稼働中の戦車工場は一つしかないと報じている。旧式戦車を改造して戦場に送り出すケースが増えているという。

同誌によると、1930年代に建設されたこの巨大工場は、資金難で近代化が遅れている。労働者たちは「戦車を手で組み立てている」と冗談を言い合うほどだという。

ロシアの独立紙『ノーヴァヤ・ガゼータ』は、同工場の生産能力が月産20両にすぎないと報じた。西側関係者はエコノミスト誌に対し、ロシアでは戦車の需要が供給を10倍も上回っていると語っている。

ロシア連邦軍のT-72B3主力戦車(写真=ロシア連邦国防省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

旧式戦車を改造して戦場に送り出す

ロシアではT-72戦車に最新機材を導入したT-90などを採用しているが、前述のように、これら新型の新造が間に合っていない。そのため、旧式を改良したT-72B3戦車などを多く製造してその場をしのいでいる。

T-72B3は数十年前のT-72をベースに、より射程の長い大砲や、攻撃の貫通を避けるための爆発反応装甲、通信設備のデジタル化などを盛り込んで強化を図ったものだ。

エコノミスト誌はロシアメディアによる報道を基に、戦車製造のウラルヴァゴンザヴォド社がこうした古い戦車を月間8両のペースで再整備しているほか、その他の修理工場で17両を再生していると報じている。

今後数カ月で間に合わせの修理工場がさらに2つ稼働予定となっているが、とくに半導体チップの不足を受け、生産は難航する見通しだ。同誌は新工場が稼働したとしても、毎月150両のペースで失われているのに対し、供給はこれに満たない月間90両少々のペースにとどまるだろうと指摘する。