植田氏も「出口戦略」がないことを知っている

さらに、植田氏は「しかし我々としてもその出口となるストラテジーがない」と述べている。この時点(21年前)で、植田氏は、長期国債の購入という禁じ手に日銀が手を染めてしまうリスクを予言している(当時、中央銀行は通貨の信用保持のために、株や長期国債など値動きの激しく債務超過のリスクのある金融資産を持つのはタブーとされていた)。

そして、長期国債の爆買いをしても景気がよくならなければ地獄を見ること、出口戦略がないことも見抜いていた。私の長年の警告と全く一緒だ。

当時(2000年12月末)の日銀当座預金残高は6兆8000億円、国債保有高は56兆円だった。現在(2022年12月末)の日銀当座預金残高は502兆円、国債保有高は564兆円に上る。しかも、そのうちなんと556兆円が長期国債だ。

日銀のバランスシートがここまで膨れ上がるとは当時の植田氏も、さすがに想像だにしていなかっただろう。こうなった以上、確実に地獄がくるし、出口はないと思ってもいるはずだ。

東京都中央区 日本銀行本店(2010年撮影)(写真=Wiiii/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

市場の暴力を甘く見ていないか

日銀が危機的な状態であるのを熟知している植田氏が、なぜ次期総裁職を受けたのか。結論から言えば、それは、市場の怖さを甘く見てしまったからと考えざるを得ない。

日銀に対する危機感が私と全く同じであっても、今後起こりうる市場の暴力のマグニチュードの予想が異なっていそうだ。学者先生と、マーケットで何度も血へどを吐く経験をしたトレーダーとの差だと思う。

植田氏は、出口脱出時に地獄は不可避だが、その地獄は大した地獄ではないと思っているのではなかろうか。しかし、植田氏が20年前に想定していた「地獄」とば、「甘っちょろい地獄」で、これから起こる市場の暴力は「とんでもない地獄」なのだと私は思うのだ。

植田総裁になれば金融政策は変わるのか

植田氏の名前が最初に報じられた時、国債相場やドル円相場は動いた。

新総裁になれば金融政策の修正(YCC:イールドカーブコントロール、長期債を買い入れて金利を一定の範囲内に誘導するもの)が行われ、日米金利差の縮小により円高が進行するだろう」と思惑から、日本国債売りと円買・ドル売りが見られた。

しかし、植田氏が新総裁になったらこのYCCを止めて、長期金利の上昇を許すのだろうか。