日本を停滞させる独特のPDCAサイクル

そして思考停止を助長しているのが同調圧力です。横並びが良しとされ、出るくいは打たれます。先ほどの例でも見た通り、突出した天才が現れてもその才能を伸ばそうとするのではなく、叩いてしまうことになるのがこの同調圧力という現象です。結局、論理や合理性、データや事実といったものが軽視されることになります。周りを見回して相対的にまあまあできていればよい、この程度やっていれば怒られないだろう、という働き方になってしまうのです。

徳岡晃一郎、房広治『リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」』(KADOKAWA)

また、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生が警鐘を鳴らしている「オーバーアナリシス」「オーバープランニング」「オーバーコンプライアンス」という3つの過剰がはびこっていることも指摘しておきたいと思います。これは「考えてばかりで、何もせずに、怒られないように終始する」とも言い換えることができるでしょう。失敗したくない、怒られたくない、という気持ちが強すぎるあまり、責任を取らない、スピードが遅い、実行しない、反省したり失敗から学んだりしない、という悪循環になるわけです。

経営の継続的な改善手法としてPDCAサイクルの概念がよく使われます。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価・測定)、Act(改善・対応)というものです。これに対して社会学者の佐藤郁哉氏は、日本企業はPdCaだと指摘します。PlanとCheckが大文字で、doとactが小文字。つまり、計画や評価・測定ばかりやっていて、実行や改善がないということです。これがオーバーアナリシス、オーバープランニング、オーバーコンプライアンスという3つの過剰の悲しい帰結だと言えるでしょう。

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