トヨタで“おやじ”と呼ばれるリーダー

トヨタでは、現場の班長をまとめる組長や、さらにその上に立つ工長は、メンバーたちから“おやじ”と呼ばれてきました。

組長や工長は、長い時間をかけて担当工程のスキルを磨き上げてきた高技能者であるというだけではありません。部下の日々の様子に目を配って仕事や私生活の悩みがあれば相談に乗り、彼らが伸び伸びと仕事に集中できる環境を整えます。

そして、「ものづくりの原理原則」を自律的に追求し続けられる一人前の技能者に鍛え上げる、という役割も担っています。

つまり、“おやじ”という呼び名は、技能の面でも人材育成の面でも頼りになり、人間力が高く尊敬できる存在だというしるしであり、勲章なのです。

肩書を副社長から“おやじ”に

トヨタには、この“おやじ”を肩書きとしている人がいます。前副社長の河合満氏です。

写真=時事通信フォト
2020年春闘の集中回答日を迎え、記者会見するトヨタ自動車の河合満副社長(当時)=2020年3月11日、愛知県豊田市

河合氏は、中学卒業後にトヨタ技能者養成所(現トヨタ工業学園)でものづくりを学び、鍛造部で腕を磨いてきた現場のたたき上げです。2015年に技能職出身で初の役員となり、2017年に副社長に就任しました。そして、副社長となった後も、執務室を鍛造の現場に置き続けました。鍛造工場には、鍛造の過酷な作業による汚れや汗を流すための浴場があります。

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河合氏は、今でも現場の従業員たちと一緒に風呂に入って裸の付き合いをして、現場とともにあることを大切にしています。

2020年、河合氏の肩書きは、副社長から“おやじ”に変わりました。これは、リーダーとしてあるべき姿は高い技能と人間力にあふれた人物であるというトヨタの意思表示であり、河合氏はトヨタの中で、その役割を体現する象徴的な存在なのです。

個人の時代に人間力を持ち出すことは、一見、懐古的に思えるかもしれません。

しかし、リーダーが果たすべき基本的な役割や行動原則はコロコロ変わるものではありません。周囲に慕われ、どんな相手にでも堂々と自らの意見を主張できる人物のあり方は、むしろこれからの時代にますます重要なものです。

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