“精神的な信頼関係”は時代遅れなのか

とはいえ、「信頼関係」という精神的なつながりを大切にするトヨタのチームづくりは、そもそも時代遅れだと感じられるでしょうか。

「リーダーとメンバーは、仕事だけでつながるドライな関係で十分なのでは?」「ビジネスチャットなどで、業務上必要なことだけをやりとりしたほうが、生産性は高まるのでは?」

そんなふうに思われるかもしれませんね。

ここに興味深い事例があるので、ひとつ紹介させてください。

グローバル企業の代表格であるGoogleは、組織における働き方の研究成果や事例、専門家のアドバイスを「Google re:Work(リワーク)」というウェブサイトにまとめ、発信しています。

その「マネージャー」の項目において、「効果的なマネージャーは仕事の面だけでなく個人的な面においても自分のチームを気にかけている」と指摘しています。

また、「マネージャーが個々のチームメンバーに対してそれぞれに対する気遣いを示すことが重要」とし、“共感”と“思いやり”という形で個人の精神面をサポートする重要性にも言及しています。

過去にGoogleでは、マネージャー職を廃止し、管理職のいない組織がこれまで通りに機能するかどうかを実験しています。結論からいうと、この試みは失敗に終わり、組織にとってマネージャーが極めて重要な存在であることがわかりました。チームメンバーを温かく精神的に支えるマネージャーの存在が、仕事の成果に直結していたのです。

これを受けてGoogleは、マネージャーとなる人材のスキルアップを図るための育成・サポートのしくみづくりに本格着手しています。

カリフォルニア州マウンテンビューにあるGoogleオフィスビル
写真=iStock.com/JHVEPhoto
※写真はイメージです

今後はさらにウェットな信頼関係が求められる

マネージャー教育の重要性は、トヨタもかねてより認識し、長年、取り組んできました。トヨタの考える「人間力のあるリーダー像」は、一見、ウェットで古くさく感じられるかもしれませんが、これからの時代を生き抜くために求められているものと共通しているのです。

リーダーがチームのメンバーを温かく包み込むことで、メンバーは安心して能力を発揮できます。上下関係に囚われず、「一緒に働く仲間」としてのリーダーの「人間力」がチームの成長を促すことができるのです。