就業スタイルは、コロナ前には戻らない
2021年度のJR4社・私鉄21社の鉄道とバスを含む運輸事業は、前年に続き、やや持ち直したものの上記合計25社のうち22社が赤字を計上した。コロナ禍の長期化に伴い、インバウンドの蒸発だけでなく、リモートワークの定着を前提にした事業構造の構築が急務な状況だ。
鉄道事業は損益分岐点が高く、旅客数が2割減少すると採算割れに陥るといわれる。業務改革などによる合理化や、新規事業の立ち上げなどを懸命に模索しているが、それだけでは収益改善につながらず、値上げ申請が相次ぐと予想される。
「テレワークを体験し、通勤移動の無駄とストレスとを実感した都心ワーカーたちが、コロナ収束後にまったく元通りの就業スタイルに戻る、ということは期待できない」
というのが多くの有識者の見解だ。
「阪急型沿線開発モデル」の崩壊
これまで大手私鉄各社は、沿線価値の向上を経営目標に事業を展開してきた。
都心と郊外を結ぶ私鉄各社は「阪急モデル」といわれる「鉄道、宅地開発、都心商業」をセットにした事業経営で、「住む、移動する、買う」という消費ポイントを、押さえることで発展してきた。
宅地開発単体での収益は低くても、都心ターミナルの商業施設の利益や、鉄道運賃を合算して利益を確保する、総合的で安定した収益構造を構築してきた。
沿線価値は「利用者数×ブランド力(=高所得)」と定義される。鉄道各社は阪急型沿線開発モデルを基に、沿線価値を高めることに注力して発展してきた。
沿線価値の特性は、鉄道各社さらには各沿線によって異なり、東急田園都市線であれば「住みやすさ重視」、京急本線であれば「ビジネス利便性重視」、京王線は「子育て重視」などが志向されてきた。
ただいずれも、都心通勤に付帯したライフスタイルを前提にしてきた。そしてコロナ禍によって、その前提が崩壊したのだ。