「都心に近いほどいい」ではなくなった
テレワークの浸透により、都心への通勤旅客数は大幅に落ち込み、通勤定期代を廃止して実費精算する企業も本格化している。都心ターミナルにおいて約半数を占める通勤定期客は、鉄道各社の収益の柱であるとともに、通勤帰りの立ち寄りショッピングや、定期券を利用した休日の都心ショッピングにも寄与していた。
鉄道各社は「元祖サブスクサービス」ともいえる固定顧客を失っていることになる。
さらに「どこででも働ける=どこにでも住める」という状況が、「通勤○○分」という住宅地の沿線ヒエラルキーそのものを覆し、どの街、どの沿線に住むのか? も「自由化」したのだ。
人口減少・少子高齢化が進み、首都圏でも近未来には、沿線人口の減少が深刻化するため、各社とも対策を検討していた。
2030年頃を想定していた近未来が、コロナ禍により10年前倒しで到来することになったといえる。これまで非常に有効に機能してきた【阪急モデル:都心通勤に付帯した沿線価値】を抜本的に見直す必要があると言えよう。
「わが街の退屈さ」
「どこででも働け、どこにでも住める時代」とは、これまでの都心を頂点とした通勤利便性ピラミッドからの解放、居住地「自由化」時代の到来を意味する。おウチ時間が増え、自宅を中心とした生活圏で過ごす時間が長くなると、「都心から○○分」「駅から○○分」という、交通利便性以外の「生活価値」が求められるようになるのだ。
緊急事態宣言下で自宅周辺でしか過ごせない期間に、住宅ばかりが並ぶ街並みと、ランチ対応のチェーン店しかなく、「わが街の退屈さ」を痛感した人も多かったのではないだろうか。
小田急ホシノタニ団地の成功例
退屈な郊外の街を魅力的にした事例のひとつが、小田急線座間駅前にある「ホシノタニ団地」だ。
小田急電鉄の社宅(全4棟、2014年3月閉鎖)を大規模リノベーションした集合住宅だが、内装を新しくしただけではなく、1階をカフェやランドリー、子育て支援センターにした上で、共用部の庭には貸し菜園やドッグランなどを設け、地域に開放したのだ。
それまで寂しかった駅前に、継続的に人が集まるようになった。新しい飲食店が生まれたり、マルシェが開催されるなど、新しい賑わいが生まれている。
駅前に開放的で、消費以外の活動を楽しめる場所ができると、街の様子が一変するのだ。