総務省が有識者WGを設置したこと自体が、NHKが熱望していた「ネット事業の本来業務化」を認める方向性を意味しており、自民党も後押ししている。
有識者WGは今夏にも、NHKのネット事業を「放送の補完」から「放送と並ぶ本来業務」に位置づける段取りで、今後、議論の中心は「ネット事業の本来業務化」の障害やハレーションを極力抑えるための方策に移っていくとみられる。
「公共放送」として放送界をリードしてきたNHKが、「放送メディア+ネットメディア」として法的に位置づけられて「公共メディア」に脱皮することになれば、1926年の発足からまもなく創立100年を迎えるNHKにとって歴史的な転機になろう。
娯楽部門を切り離し、報道と教育・教養に特化するべきだ
だが、真に「公共メディア」となるためには、NHK自らが、その具体像を示すことが求められる。
たとえば、民業とバッティングするドラマやバラエティなどの娯楽部門は廃止あるいは分割民営化し、「公共メディア」にふさわしい報道部門や民業が参入しにくい教育・教養部門に特化するというような英断も、真剣に検討されなければならない。
娯楽番組は民放に任せたほうがいい。NHK本体が制作費をかけて放送しなくても、民放やネット番組が担うことができるからだ。どうしても放送したいのであれば、別会社を作って採算が取れる形で制作すればいい。そうすればNHKはスリムになるし、人件費も制作費も節約できる。
自らの血を流す大改革が断行されれば、事業支出は大幅に減り、受信料も劇的に下がることが期待できる。
もし、現在の組織や業務の形を維持したまま、ネット事業を本格的に展開することになれば、「際限なき肥大化」の批判を浴び続けることになろう。
NHKのトップに、特に求められるのは「NHKに対する強烈な愛着」「国民共有の財産という明確な意識」、そして「ジャーナリズムの一翼を担う確固たる自覚」だ。
25日の就任会見で、稲葉会長は、自らの役割を「前田・前会長が進めた改革を検証し、発展させること」と位置づけた。だが、前田改革は経営面での改革でしかなく、報道機関としての改革は棚上げしたままだった。
「公共メディア」として、国民のために何をするのか、したいのか。稲葉会長は、前田・前会長が積み残したNHKが問われている最重要の課題には、まったく踏み込まなかった。
そして、最大の問題になっている政治との距離については「報道機関として自主的な判断に基づき、不偏不党の立場で報道する」と原則論を述べるにとどまった。その原則を貫徹できないことが問題視されているという認識があるのだろうか。
はたして、稲葉会長が、国民から歓迎される「公共メディア」に進化する重責を担えるかどうか。意気込みだけでは、道は開かない。歴代の外様会長と同じように、あっという間に3年が過ぎてしまうかもしれない。
稲葉・NHKの船出を、国民は期待よりも不安をもって見つめている。