また、私たちの研究チームの研究では、視覚刺激の時間分解能も上がることがわかりました。つまり、恐怖や不安の表情を目にすると、ASD者は刺激に対してさらに敏感な状態になるのです。

しっかりと言葉で伝えることが重要

もう1つは、ストレスのかかる環境にいるときや、体調がすぐれないときです。

私たちのチームでは、恐怖の表情を浮かべた顔画像を提示したときに「時間分解能の向上の効果」と「不安の強さとの関係」について質問紙(状態・特性不安検査/STAI:State-Trait Anxiety Inventory)を用いて検討しました。

その結果、状態不安(注:この場合は実験場面での不安の高さを意味します)が高いASD者ほど、嫌悪顔画像の提示による時間分解能の向上の程度が大きい傾向が見られました。

ASD者から感覚過敏についてのさまざまな話を聞かせてもらいますが、

「会社や学校で人前に立って発表する前に感覚過敏が強まった」
「体調が悪いなあと感じていたときに感覚過敏が強まった」

という声が多いのです。

井手正和『発達障害の人には世界がどう見えるのか』(SB新書)

ですから、周囲にいる人たちがASD者の不安を高めないようにできることは、「不必要に表情を用いて相手への怒りや嫌悪を表さないようにすること」ではないかと思います。

ASD者は感情的な顔に対して不安を高めやすい一方で、表情の読み取りが苦手な傾向があるということも報告されています。感情的な表情によって漠然とした不安を高めているのかもしれません。ASDの方に対して自分の意思を伝えなければならない状況では、しっかりと言葉で伝えた方が、余計な不安感を与えることがないかもしれません。

また、ストレスや体調不良によって感覚が鋭敏になることを考慮すると、「ストレスのかかった環境をヒアリングし、できるだけストレス要因を取り除いておく」「体調をくずしやすい状況を把握できるように促し、その場合は無理をさせない」……といったことも重要ではないでしょうか。

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