「勝手にどうぞ」妻は、もう止めはしなかった

帰ってからも、熱は全然冷めなかった。どこで金が採れるのか、調べた。

金は常に流れている。金は重いので砂の下に埋まって溜まっていることが多い。バスケットボール二つくらいの大きな石のところに溜まる……砂金掘りについて古文書を広げながらいろいろ調べていくと、かつてゴールドラッシュがあった北海道の町に行きついた。

川で砂金を探す河浚さん(写真提供=河浚泰知)

行ってみたい。まずはそこへ行ってみよう。その熱い衝動は今も鮮明に覚えている。「勝手にどうぞ」。妻は、もう止めはしなかった。

宗谷地方南部に位置する町、中頓別町なかとんべつちょうから30kmの距離にあるウソタン。人口が1000人にも満たない町、ここにゴールドラッシュに沸いた時期があったそうだ。

トランク一つで羽田から旭川へ、1週間レンタカーを借りて、クッチャロ湖の湖畔にあるトシカの宿へ直行した。そこから始まった砂金掘り。ネットで調べると、ウソタンナイ砂金採掘公園には、川床を浚って土砂を掘りパンニングを教示するインストラクターがいるという。早速出向き、指導を受けた。以降、北海道へはコロナ禍を除いて通い続けている。北海道の果てまで来る人の多くは地元民か東北の人で、神奈川から来ていたのは自分くらいだ。

通常、砂金掘りの時期は6~9月いっぱいまで。当初は1カ月ほどの滞在だったが、どんどん長くなり、最長2カ月いたこともある。最初はキャンプ場でテントを張ることもあったが、しまいには市営アパートを借りて自炊した。

北海道の複数の川で数日間かけて採った金、計5.98g。「川の名前は内緒です」(写真提供=河浚泰知)

雨が降ると川が濁り何もできない。部屋にはペチカがあって、6月で薪を焚く。辺りには、セイコーマートという地元のコンビニチェーンがあり、朝早くから開いていた。そこでは出来たてのお弁当も買えるし、ゴミも捨てられる。

砂金掘りは孤独な作業だ。川に出られるのは朝7時から15時まで。前の晩は、8時には寝てしまう。北の大地は、朝の3時から明るくなるので、5時過ぎごろから“仕事”へ出かける。GPSで居場所がわかるようにして川に入る。三角形の傘帽を被り、胸の辺りまである釣り人が着るような耐水のウェザーを身に着けて川に入る。

長く川に入っていると水流や水温に体力を奪われ、しんどくなる。それでも、ホカロンを貼り付けているし、冬ではないので体が冷えきることはない。あっという間に、時間が経ってしまう。疲れたら、足腰を伸ばしに少し休憩し、また川へ戻る。台風が来ると川の流れが変わる。雨がひどいと、ただいるだけになる。一度、部屋に帰ってまた行くこともあった。