新入社員の半数が「転職できなくなるんじゃないか」

この「不安」という要素について、現在の新入社員にさらに掘り下げた質問をした。職業生活について、回答者自身の認識を3項目で聞いた結果を示した。例えば、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」という質問に対して「そう思う」と回答した者の割合は、現在の新入社員のほぼ半数、48.9%に及んだ。

出所=『ゆるい職場

実際に大手企業の新入社員へのインタビューにおいても、「すごく成長に時間がかかるなあと、会社の時間の流れがゆっくりしていると感じる」「社外で通用しなくなるのでは、と思っていた。マニアックな業界でもありその部署でキャリアが終わる人が多かった。部署全体で仲は良いので、正直居心地は良く、人間関係では全く困らなかったが、本音ではこのままではまずいと感じている」といった声が聞かれていた。

こうしたキャリアへの焦燥感や根源的な不安は、仕事の負荷の低下や職場環境の改善によっては消失しておらず、むしろ強まっているようにすら感じられる。

「この職場にいると転職できなくなるのではないか」
「自分の会社でしか生きられない人間になってしまう」
「同年代と比較して活躍できるようになるイメージがわかない」
「会社の仕事を続けていると、キャリアの選択肢が狭まるように感じる」

こうした声は、いくら労働時間を削減し職場環境を改善してもなくなることはない声なのである。

なぜ職場環境が良くなっているのに不安なのか

ここまで、大手企業の新入社員を取り巻く職場環境が変化している可能性について、調査結果から整理した。この結果として明らかになったのは若者たちの認識上、現在の職場環境については「比較的負荷が低く、職場環境もサポーティブで、想像を悪い方向へ裏切られることも少なく、会社のことは以前の新入社員より好き」であるという相対的傾向が見られる。

こうした結果は、なぜ新入社員の36.4%が「ゆるい」と感じているのかという疑問に対して、その理由を饒舌に述べその実像を明らかにしている。

加えて判明したのは、大手企業の新入社員の多くが同時に「ストレス実感は決して低くなく、自分は別の会社や部署では通用しなくなるのでは、などの“不安”を抱えている」ことだった。

「ゆるい」のに「不安」、という状況が矛盾しているように感じられるだろう。しかし、職場を「ゆるい」と感じている大手企業の新入社員の方が自身のキャリアの不安を感じているという明確な関係も発見されているのだ。

職場の「ゆるさ」が生んでいる不安の代表例としてひとつの集計を掲示したい(図表3)。

出所=『ゆるい職場

「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる」という項目に「強くそう思う」「そう思う」と回答した者の合計は、職場を「ゆるいと感じる」と回答した新入社員が非常に高い結果となり、合わせて62.6%に達している。特に、「強くそう思う」については23.7%であり、圧倒的に高い割合である。このように、職場のゆるさは新入社員のキャリア不安に直結している。

ただしゆるいと感じている新入社員はその会社のことが嫌いというわけではない(図表4)。

出所=『ゆるい職場

「ゆるい」と感じている職場は、上司・先輩の支援が手厚く、労働時間が短く負荷が低い傾向が見られるため、当然と言うべきかもしれない。10点満点での自社の評価点を出してもらい、職場に対するゆるさ感別に平均点を示すと、最も評価点が高いのが「ゆるいと感じる」新入社員である。著しく労働環境・条件が悪い回答者が一定数含まれると考えられる「ゆるいと感じない」が一番低いことも頷けるが、いずれにせよ成長できるかどうかと会社が好きか嫌いかは全く別であることが、若者の現状への理解を非常に難しいものとしている。