※本稿は、前野隆司『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』(大和書房)の一部を再編集したものです。
幸福度も生産性も高く会社を見極めるシンプルな方法
米イリノイ大学心理学部名誉教授だった故エド・ディーナー氏らの論文によると、幸福度の高い社員の創造性は3倍、生産性は平均で31%、売上は37%高いという傾向が出ています。まさに圧倒的な数字です。
しかし、仕事にやりがいを感じていて人間関係も良好なのであれば、それほど驚くべきことでもないかもしれません。かくいう私自身もそうです。幸福の条件を科学的に研究しようと決めて以来、働くことや学ぶことが楽しくて仕方ありません。
もちろん、それほどまでに仕事が好きな人は少数派だと思います。それでも、幸福感の高い「いい会社」で働くことに異論はないはずです。にもかかわらず、いまだ多くの経営者がこの点を誤解し、従業員の意識とのあいだにギャップが生まれています。これこそが、日本の職場の課題のひとつなのです。
これらを踏まえて本記事では、幸福学の見地から「いい会社」を見極めるシンプルな方法を解説していきますが、まずは失敗例から紹介した方が腑に落ちるでしょう。
さっそく、あるエピソードをお話ししていきます。私の近著『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』のなかに登場する、1人の青年の職場がまさにその典型でした。
突如始まった人事評価制度
彼の職場は20人ほどの小さな制作会社。基本的な仕事のフローとしては、社長が取ってくる案件が振り分けられ、それをこなすだけだったといいます。
そのため、同僚や先輩の仕事ぶりや評価の基準を気にすることなく日々、黙々と働いていたのですが、そんな状況があるとき一変します。
「より公平な評価をくだすため、今後はポイント制を導入する」と社長が宣言したのです。
どういうことでしょうか。ミーティングや会議への出席、企画書の作成や打ち合わせはもちろん、社内のゴミ出しやお茶くみにまでポイントが振り分けられ、しかもその内訳を社員同士でチェックできるようになったのです。
「それほど悪い制度だろうか?」と感じたでしょうか。たしかにフェアな制度ではあります。もし不当にポイントが入っている社員がいたら一目でわかりますし、競争心も煽られるでしょう。頑張れば頑張るだけポイントをもらえるとなれば、仕事への積極性も増しそうなもの。しかし、現実は意外なものだったと青年はいいます。