フェアな職場=幸福な職場ではない

少し話が脇道に逸れるようですが、社内における青年の座席は、偶然にもトイレとゴミ箱の近くに位置していました。小さな会社なので、誰かが気を利かせてトイレの備品交換などをしなければなりませんし、ゴミ出しもしなければなりません。

それまで青年は、純粋な親切心でその役を買って出ていたのですが、ポイント制の導入以後、彼の内部に変化が起こります。というのも、各業務におけるポイント内訳の中で、青年だけが突出して「トイレ掃除」「ゴミ出し」の割合が高かったのです。それを見た青年は、思わず赤面します。同僚や先輩が、自分を陰で嘲笑しているのではないかと想像してしまったのです。

「あいつ、仕事ができないからって、トイレ掃除とゴミ出しでポイントを稼いでいるんじゃないか?」

もちろん、現実的にそんなことはあり得ません。しかし、ひとたび全ての作業がポイントとして可視化されてしまうと、もはやそれまでの青年の親切心は霧散してしまいました。さらには別の社員から「自分のほうが難しい案件をこなしているのに、同じポイントが振り当てられるのはおかしい」という声まで上がり、その都度、調整はされていったものの、しだいに社内はギスギスしていったといいます。

ゴミ箱を探すビジネスマン
写真=iStock.com/shutter_m
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このような「透明性の導入」がモチベーションに悪影響を与えるという現象は、日本企業だけでなくプロスポーツチームでも報告されています。

つまるところ、誰もが「ポイントが高い」仕事だけに熱意を込めるようになり、それ以外の作業をやらなくなるのです。

よい会社かどうかを見極める必殺の逆質問

ここまで書けば、本記事のタイトルに対する答えも想像に難くないでしょう。“本当にいい会社か”を一発であぶり出す、必殺の逆質問。それは「御社では、どのような基準で社員を評価していますか?」という質問です。

もしこの質問に対して、先ほどのポイント制のような「透明度の高いシステム」を自慢げに説明してくるようであれば、その会社で幸せに働くことは難しいでしょう。そこまであからさまな言い方でなくても、社員同士の比較や競争心を促進するような仕組みが少しでもあるようなら、その点には警戒すべきです。

一方、上記の質問に対し「そこまで厳密な基準で社員を評価しているわけではありません」という答えが返ってくるようなら、もう少し話を聞いてみる価値があります。その結果、生産性を煽るのではなく持続性を育てるような社風が感じられたなら、それは「いい会社」であるといえるでしょう。

決して理想論や夢物語ではありません。実現している会社もあります。たとえば伊那食品工業株式会社という寒天メーカーでは、社員に対して営業目標を課さず、「業績や利益にとらわれず、従業員の幸せを考える」という理念のもとで経営し、それでいて48期連続の増収増益を成し遂げています。

「合理的なシステムがすべていけない」といっているのではありません。たとえば、事故を未然に防ぐチェック機構などが非常に合理的に設計されているのであれば、それは当然、評価されてしかるべきポイントです。そのうえで、やりがいをもって働けるかどうかを判断する基準として、社員評価について聞いてみるとよい、ということです。

また、幸福度など度外視して、機械的に働くほうが自分には向いているという人もいるでしょう。もしそうであれば、青年の会社のような、公平な評価制度の方が長く働けると思います。ですから、絶対の尺度は存在しません。いずれにせよ、会社の評価制度について聞いてみることは、非常に有効であるとはいえます。