学ばない日本人は変わるのか

よく知られていることですが、日本は先進国の中でもGDPにおける人材投資の規模が極めて低い国です。企業の人材投資額は、バブル崩壊後に大きく下がり、そのまま低水準で推移しています。国際比較を見ても、極端に低い傾向にあります。

人的投資も個人の学び続ける習慣も極めて弱く、パーソル総合研究所の調査でも、社外学習・自己啓発「何も行っていない」人の割合は断トツの1位、52.6%のビジネスパーソンが読書すらしていない実態が明らかになっています。

経済成長の鈍化が続く日本が環境変化にこれ以上取り残されないためにも、リスキリングは「社会課題」そのものです。これまで有識者たちが繰り返してきたような働く個人への「お説教」や「啓蒙」程度では、この現実は動きません。リスキリングを推進する企業や政府といったプレーヤーがどのような施策を打っていくかによって、この「ブーム」の行く末は決まるはずです。

出所=パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」

従来の「工場モデル」の発想ではうまくいかない

では、官民合わせた大合唱となっているこのリスキリングの潮流により、日本経済は再生するのでしょうか。現状を見る限り、その行く末は残念ながら暗いと筆者は考えています。日本の社会人領域の学びの推進には、かねて指摘されてきた困難がいくつも存在しますが、今のリスキリングをとりまいている議論と実践は、その課題を解決するような水準にないからです。

リスキリングについての政策議論、有識者の議論、企業で交わされる言説の内容を眺めていると、各所で行われている「リスキリング」をとりまく議論は、ずいぶん昔から聞いたことのある言葉のオンパレードです。

「リスキリングを進めるには、まずこれから不足するスキルや仕事を明確にすることが必要だ」
「未来のスキルのニーズと既存従業員のスキルと照らし合わせ、そのギャップを埋めていくべきだ」
「企業が求める人材像を、これからの経営戦略・人材ポリシーに沿って明確に描くことが求められる」

ほとんどの発想は、「未来に必要なスキルを明確化し」→「そのスキルを新たに身に付けて」→「ジョブ(ポスト)とマッチングする」という線的なモデルを前提にしています。これはリスキリングの「工場モデル」と呼べる発想です。

このような論理の運びは、何十年も前から繰り返されてきたものです。人材育成・人材開発についての学術的な研究は、わが国でも多くの知見が積み重ねられてきましたが、「リスキリング」の一般的議論は、まるで先祖返りしているかのような単純さが目立ちます。だからこそ、ベテランの人事や研究者と話すと、現在のリスキリング・ブームを「学び」の新しい売り文句程度として冷ややかに見ている人も少なくありません。

図表=筆者作成

いまのリスキリング・ブームを単なるブームに終わらせないためには、なによりもこの「工場モデル」を乗り越えなければいけません。そこで、ここでは具体的に工場モデル発想の欠点を三つ挙げておきましょう。