心配な賃上げ動向

もうひとつの問題は、賃上げです。図表2にあるように、現状のインフレ率は3%台後半です。私は、そろそろインフレはピークを迎えると考えています。インフレ率は前年同月比で計算しますが、原油価格は昨年の今頃と同程度です。原油価格に加え、日本のインフレ率に大きく影響を与えた為替レート(円安)については、現状130円台前半という水準です。これは昨年6月と同程度ですから、このままのレート水準が続けば円安による影響も今年6月以降にはなくなる計算です。

もちろん、この先も食料品などの値上げが続きますが、それもあとしばらくの辛抱。もちろん、以前に比べて高い水準ですが、問題は、最終消費財の値上がり分を賃上げがカバーできるかということです。

結論から言うとかなり難しいと私は考えています。図表2には「現金給与総額」の前年比の数字が載っています。現金給与総額は、一人当たりの給与総額で、基本給等の所定内賃金、残業代等の所定外賃金、それに賞与を加えた数字です。表にあるのは、全産業の前年比です。

2022年には最大値の2.2%(9月)を筆頭にすべての月で上昇をしており、一見すると「給与は上がっている」というふうに見えますが、この数字は「名目値」です。経済の世界で「名目」というのは実額のことです。つまり、インフレやデフレを調整していない数字なのです(ちなみに、インフレやデフレを調整した後の数字は「実質」と言います)。

表にある「現金給与総額」の数字と「消費者物価」の上昇率を比較してください。2022年の3月までは現金給与総額の上昇率のほうが高いのですが、4月以降はずっと消費者物価上昇率のほうが高いことが分かります。つまり、実質賃金はマイナスの状況が続いているのです。11月は3%以上のマイナスです。これでは消費が伸びる可能性は低いと言わざるを得ません。日本では、GDPの5割以上を支えているのは家計の支出ですので芳しい状況ではありません。