では、経営者が不倫しても企業に無関係なのか?
では逆に、経営者の不倫はプライベートのことであり、企業コンプライアンスとまったく無関係であると言ってよいのでしょうか。
この点については、事案②で、会長が文春に対し記事の削除請求の仮処分命令を申立てたのに対し、8月19日の東京地裁の決定でこう指摘されています。
これを読むと、単なるプライベートではなく、「社会公共」の話であるということがはっきりしています。
つまり、“社会的に非難される不倫を行った”という事実は、ステークホルダーが経営者の適格性を判断するうえで重要な(マイナスの)考慮要素のひとつとなる、ということかと思われ、少なくとも上場企業において、経営者の不倫は、企業コンプライアンスと無関係ではなく、コンプライアンス上も不適切な行為である、といえます。
内々に処理しようとしても世間にさらされる時代
(4)企業コンプライアンスからみた経営者の「不倫」
以上のことから、企業コンプライアンスの観点から経営者の不倫を考えると、まず、経営者が事前に持つべき倫理観として、“やってはいけないこと”、という認識を改めて持つべき、ということです。
以前であれば“内々に処理する”ことで対応したプライベートの問題は、SNSの発達や、雇用の流動化などにより、そうした対応は不可能に近いといえます。また、政治家や芸能人などの不倫問題がそうであったように、以前はプライベートの問題に過ぎなかった経営者個人の言動に対しても、社会からの批判が強まる傾向にあります。経営者個人の言動によって、企業のレピュテーションまでもが大きく毀損される可能性が高まっているのです。
実際問題、いまや経営者の不倫はニュースとなり、報道されてしまうのです。いまのところ一部週刊誌しか報道しませんが、システナの事案を通じて報道の法的なハードルは下がったことになり、今後、情報提供があれば、他のマスコミも追随する可能性もあります。
また、事案①、②では、会社は報道に対応せず、やり過ごしても対外的影響はなかったように見えますが、少なくとも企業内部で、経営者のイメージや敬慕のレベルが低下し、言動の説得力が低下することは明らかであり、リーダーシップが発揮しづらくなるといった影響は避けがたいものがあります。ほかにも、採用活動などにマイナスの影響が生じる可能性は高いです。
現代においては、経営者はプライベートも律する必要がある、ということが言えます。