システナ会長は文春を訴えるが失敗
システナ逸見会長の件(事案②)
つぎに事案②として、大手IT企業「システナ」の創業者で会長の逸見愛親氏が、既婚者でありながら「パパ活」を行っていたと、22年7月27日に文春オンラインが報道した件についてです。
システナは、企業向けアプリ開発、システム開発、IT環境構築などを行う会社です。逸見会長は、1983年にヘンミエンジニアリング社を設立し、それを一代でここまで成長させた人物です。
会社は取材に対し、「個人のこと」、「当社としてはコンプライアンスに反する事実は認識できておりません」として、対応しませんでした。こうした回答ですから、会長に対する処分等もありません。
一方、会長個人は、記事が「経営能力等には全く関係のない私的領域内での事柄」であるとして、プライバシーなどを理由に記事の削除請求を求め、東京地裁に仮処分命令を申立てましたが、8月19日、「記事の内容は、公共の利害に関わる事項である」などとして却下する決定が出ています。
こうした対応について、こちらも大きな話題になったり、炎上したり、といった形跡は見受けられません。ただ、横浜ゴムと異なり、マスコミに反撃に転じたものの失敗に終わり、その後、文春の追加報道を呼び込んでいます。「システナ」は基本BtoBの企業であり、一般への知名度、ニュースバリューなどの点で、話題性が足りなかっただけとも考えられます。
経営者の不倫は芸能界ほどバッシングされない
(3)比較検討
以上の事案を検討すると、まず前提として、最近、数多くの報道があることからして、経営者の不倫に社会からの一定の関心があるのだろうと思います。
しかし、事案①、②では当事者はなんらの責任もとっていませんし、それにもかかわらず企業が社会から大きな批判を受けていないのですから、経営者の不倫一般について、“社会的に許容すべきでない”という強い社会的要請があるとまではいえないと考えます。
これに対し、2021年2月3日、上場医療ベンチャー「メドレー」の豊田社長が、緊急事態宣言の最中、愛人と密会を重ねていたと文春オンラインが報道し、即日社長を辞任して、取締役として無報酬で働くという対応を行った例があります。しかしこの事案は、豊田氏が報道番組のメインキャスターと結婚し、第1子が誕生したばかりで起こした不倫騒動であり、社会的な耳目を集める事案であったうえ、豊田氏が医師でもありながら医療現場逼迫中に密会を重ねるという、もうひとつ大きな倫理違反行為を犯していたという事案であり、かなり特殊な事情下での事案です。
このような特殊事情がある場合に、通常よりはるかに大きな社会的責任を負う結果、重い処分を行わなければならない場合があり得る、と評価すべきです。