妹のための研究のはずが、家族には不評

翌年、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、高度な実験器具、学外の専門家からの指導などに恵まれる京都教育大学附属高校に入学し、蚊の研究を発展させる。

妹の他、高校の教師たちから足のニオイのもとである菌を採取して培養。培養した菌を蚊に近づけた場合も、足を近づけた場合と同様に交尾回数が増えるのとともに、単離培養、すなわち菌を1種類ずつ近づけても蚊は交尾行動を起こさないことを突き止めた。

この研究では、足の菌を提供してくれた28人の中で、妹の足の菌に蚊が最も強く反応する一方、田上さんの足の菌には蚊が一切反応を示さないこともわかった。対照的なサンプルが、一番身近なところで得られたわけだ。

高1の田上さんにこの研究を聞いたとき、私は、彼の探究心に感服しつつも、内心、妹が蚊に刺されるのを止めたいはずなのに、蚊の交尾数を増やすと、蚊が増えてしまい、元も子もないのではないかと思った。元も子もないどころか、田上さんは当時、蚊の飼育箱から蚊が逃げ、妹を刺すので、妹は自分の実験自体をすごく嫌がっていると語っていた。飼育箱が部屋を一つ占有するため、両親も嫌がっていたという。

夜な夜な蚊を捕まえて交尾を観察

高校に通いながら蚊の研究にどのように取り組んでいたのだろうか。

「蚊が活発に交尾するのは、夜中です。なので午後11時頃に、スイカとかパイナップルを餌として与えて、交尾済みの雌に僕の腕を吸血させて、足のニオイを嗅がせるなどして交尾回数を数えていました。実験が終わるのは午前1時とか2時です。一番時間がかかるのは、未交尾と交尾のすんだ蚊の仕分けです。

夜に生まれることが多いのですが、1匹ずつ手で捕まえるので大変でした。大学でショウジョウバエの神経幹細胞を研究することになりましたが、その研究室では、生まれたばかりのショウジョウバエを二酸化炭素で眠らせて、顕微鏡で見ながら雄と雌を分けます。1匹ずつ捕まえるのと比べて、すごく楽です」

撮影=東谷忠
田上さんの実験ノート。鬼ボウフラの生態についてまとめている

学校の課題など、勉強をする暇がなさそうだが……。

「勉強は昼間にしていました。昼寝することもありましたが」