ついに蚊に刺されにくくなる方法を見つける

高2のとき(2016年)の研究で、田上さんは本丸に切り込む。すなわち、蚊が人の血を吸いたくなる理由に迫り、吸血数が減る、つまり刺されにくい条件を探ったのだ。

NHK「ガッテン!」取材班の協力も得て、若手スタッフの献身(?)により様々な条件で刺されやすさが変わるのかを調べるなどした結果、明らかになったのは「足に棲む菌の種類が多い人ほど、蚊に刺されやすい」。単離培養して1種類の菌に蚊を近づけても、交尾回数が増えなかったのと同様に、吸血数が増えないこともわかった。

さらに、足を洗浄すると、足の菌が減り、蚊の交尾回数も、吸血数も減ることがわかった。ついに田上さんは、本来の目的だった蚊に刺されにくくなる方法を見つけたわけだ。

妹の千笑さんも「家の中で蚊帳を張って寝ていたこともありましたが、刺されにくい方法を見つけることができてよかったです」と喜ぶ。

何か特定の種類の菌が発するニオイに蚊が反応して交尾したくなったり、血を吸いたくなったりするなら話は簡単だ。その菌だけを狙い撃ちする薬があればいい。しかし、蚊は、特定の菌ではなく、菌の「種類の多さ」に反応するらしい。何か一つの「食材」ではなく、いろいろな食材が混ぜ合わされた「料理」の香りで、おいしそうか、そうでないかを決めているのかもしれない。

撮影=東谷忠
蚊に足のニオイを嗅がせている田上さん

刺されやすいかを決めるのは肌の水分量

話を戻すと、田上さんは、高3でさらに「卵」を温め、「芽」を育て、第12回「科学の芽」努力賞を受賞した(千笑さんとの共同受賞)。研究タイトルは「人間が50匹の蚊に3分間で何回刺されるのかを、肌の水分量とヒトスジシマカの交尾数により数値化する」。

足の菌の種類の多寡が、蚊の交尾回数、吸血数を左右する。それでは足の菌の種類の多寡を決める要因は何なのか。たどり着いた答えは、肌の水分量だった。田上さんは、肌の水分量から、その人がどのくらい蚊に刺されやすいかを予測する数式を作った。

私は小さいときからよく蚊に刺される。小学生の娘も蚊に刺されやすい。一方、妻はほとんど刺されない。公園に遊びに行ったとき蚊に刺されるのは、私と娘だけだ。二人に共通するのは、いつも手足が湿っていること。肌の水分量が、蚊に刺されやすいかどうかを決めるという田上さんの知見は、私の実感にも合う。

元々、蚊に刺されやすい妹のためを思ってスタートさせたのだから、刺されやすさを軽減する方法を見つけた時点で研究をやめてもよかったはずだ。しかし、田上さんは立ち止まらず、肌の水分量と、刺されやすさを数式で関係づけるところまで突き進んだ。いわば蚊の実験成果を理論化したわけだ。高校生でそこまでできるのかと驚くばかりである。