犬と接するときにはどんなことに気をつけるべきか。ドッグトレーナーの鹿野正顕さんは「とりわけ初対面の犬に対して、じっと凝視したり、いきなり体をさわったりするのは避けたほうがいい」という――。(第2回)

※本稿は、鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

なでられる犬
写真=iStock.com/Chalabala
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散歩中のマーキングを好き放題させてはいけない

犬が他の個体と一定の距離を保とうとしたり、群れの中である定まった位置を占めようとする行動を「社会空間行動」といい、マーキング(匂い付け)はその行動の一つです。

マーキングは「ここは自分のなわばりだ」と主張する行動で、主に尿をかけて行います。この尿には、フェロモンや種・性別・発情状態など個体ごとの識別情報が含まれているとされます。

マーキングはオスに顕著にみられ(頻度はメスの約30倍)、性成熟の度合いによって頻度も高まります。ちなみに、電柱や街路樹などに片足を上げてなるべく高い位置に尿をかけようとするのは、自分の存在を少しでも大きく見せようとするため。「大きくて強い犬のなわばりだぞ」とアピールしているつもりなのです。

メスの場合は発情時にマーキングの頻度が増えます。いずれも去勢・避妊手術によってマーキングの頻度を減らすことができますが、完全にしなくなるわけではありません。

マーキングはほとんどが屋外でみられますが、室内でも、新しい家具を入れたり、他の動物を飼い始めたりすると、さかんにマーキングを行うことがあります。

ところで、一般の飼い主さんには、「犬の散歩中のマーキングは当たり前でしょ」という思い込みがあるようで、電柱や樹木への匂い嗅ぎとマーキングを、愛犬に好き放題にやらせている例が目立ちます。

しかし、公共の(とくに都市部での)マナーを考えると、匂いの強い尿をそこら中にかけて歩いていいはずがありません。マーキング後にペットボトルの水をかける程度では、匂いはほとんど消えません。

また都市部では同じエリアを多数の犬が散歩することが多く、匂い嗅ぎとマーキングが放置されてしまうと、“なわばりの主張しあい”でますますマーキングの度合いが増えたり、犬によっては散歩がストレスになってしまうケースもあるのです。

排泄はなるべく散歩前に済ませておき、散歩ではリードの操作で「匂い嗅ぎをさせ続けない」「マーキングを自由にさせない」などの管理をしながら、習慣化させないようにしましょう。

「奪われる」ことを犬は本能的に恐れる

野生の動物には、自分の獲物(食べ物)や交尾の相手、休息場所を獲得するための争いや、それを守るための行動がみられます。“生きていくための資源”を奪われないように、いざとなれば体を張って争う習性があるわけです。

そうしたさまざまな原因によって他の個体と争うことを「敵対行動」といい、威嚇、逃避、服従、攻撃といった行動が含まれます。

威嚇では、口を開き牙をむく、毛を逆立てる、相手をにらみつける、低い声で唸るなどの行動がみられます。

逃避は争いに至る前に相手から遠ざかり逃げること。

服従は、しっぽを股の間にはさんでその場で体を低くしたり(降参のポーズ)、寝転がってお腹を見せるなど、戦う意志のないことをポーズで相手に示します。

攻撃は実際には最後の手段で、犬同士の場合、一方の威嚇に対して他方が降参や服従の姿勢をとれば、それ以上の争いには発展しないのが普通です。

人に飼われる犬も、「奪われる」とか、居場所が「侵害される」という恐れを感じると、人に対して敵対行動をとることがあります。よくみられるのが、食事中に邪魔されたときや、お気に入りのおもちゃを取り上げられたとき、いつもの休息場所を誰かに占拠されそうになったときなどです。

犬は「奪われる」ことを本能的に恐れ、「なぜそんなことで?」と思うほど些細なことにも反応することがあります。たとえば、食事中にちょっと食器を動かそうとしただけなのに、愛犬に唸り声を上げられてびっくりした、という経験のある方もいるでしょう。