2022年6月から、販売される犬や猫にマイクロチップの装着が義務化される。ペットジャーナリストの阪根美果さんは「飼い主の半数超は『装着させたくない』と回答しているが、健康被害はほぼなく、感じる痛みも通常の注射と同程度とされている。犬や猫の体に大きな負担はかからず、災害などで離れ離れになっても、飼い主がすぐに判明する効用は大きい」という――。

東日本大震災では多くのペットが離れ離れに

2022年6月1日から、ペットショップやブリーダーといった第一種動物取扱業者が取り扱う犬や猫へのマイクロチップ装着の義務化がスタートします。

犬や猫が生後120日齢になるまで(それ以前に他者に譲渡する場合は譲渡前まで)に装着し、指定登録機関へ所有者登録を行うことも義務付けられます。そのため、ペットショップなどからマイクロチップを装着した犬や猫を迎え入れた場合には、飼い主が所有者変更の届け出を行う義務が生じます。

犬・猫への装着が義務化されるマイクロチップ(出典=環境省HP「犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A」)
犬・猫への装着が義務化されるマイクロチップ(出典=環境省HP「犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A」)

また、既に犬や猫を所有している飼い主には、動物愛護法の「動物の所有者は動物が自己の所有に係るものであることを明示する措置をとる」という観点から、マイクロチップの装着は「努力義務」と位置付けられています。新たに犬や猫を拾ったり、マイクロチップを装着していない犬や猫を譲り受けた場合も同様となります。

マイクロチップが注目され始めたのは、東日本大震災の後からです。多くの犬や猫が飼い主と離れ離れになり、自治体などに保護されました。迷子札や鑑札、狂犬病の注射済票を首輪に付けていた場合は100%飼い主が判明しましたが、首輪のみや首輪が外れてしまった場合は困難を極め、飼い主が判明することはほぼありませんでした。もしマイクロチップの装着がなされていたら、より多くの犬や猫が飼い主と再会できたことでしょう。

マイクロチップの義務化は、そのような災害時はもちろん、平常時の迷子や盗難、事故に遭ったりしたとき、身元を速やかに証明することを目的としています。つまり「もしもの時に役に立つ」というものです。

山中や動物園前に遺棄される犬や猫たち

また、犬や猫など動物を巡る社会問題でもある「飼育放棄」や「遺棄」などを未然に防ぐという効力も期待されています。後述するように、全国の保健所などに引き取られる犬と猫は年間7万頭以上に上り、そのうち2万頭以上が殺処分されています。

2013年9月に施行された改正動物愛護法では、自治体が業者から犬や猫の引き取りを求められても拒否できると明記されました。しかし、その改正があだとなり、2014年には全国の山中などに大量に犬が遺棄される事態となりました。いずれも人気種の成犬で、繁殖に使えなくなり業者が捨てた疑いが指摘されています。

また、2018年11月に11頭、2019年4月に9頭と宇都宮動物園の関係者出入口前にレトリーバー系の子犬が遺棄され、こちらも業者が捨てた疑いが指摘されています。そして、2020年8月には、千葉県習志野市のショッピングモール内の猫カフェ前に、子猫2頭がキャリーバッグに入れられた状態で置き去りにされました。一般の飼い主によって捨てられたと指摘されています。