日本では罰則がなく「法の抜け道」がある
2020年度の環境省が公表した「犬・猫の引取り及び処分の状況」によると、全国で保健所等に引き取られた犬は2万7635頭(飼い主から2701頭、所有者不明2万4934頭)、猫は4万4798頭(飼い主から1万479頭、所有者不明3万4319頭)となっています。このうち所有者不明とは、野犬や野良猫、迷子の犬や猫、遺棄された犬や猫など所有者がわからない犬や猫の数で、かなり多いことがわかります。
こうして引き取られた犬や猫のうち、犬4059頭と猫1万9705頭が殺処分されました。
マイクロチップ装着の義務化には、こうした飼育放棄や遺棄などを未然に防ぐ目的もあります。所有者不明の犬や猫を減らすことは、殺処分を減らすことにつながるからです。しかながら、安易に飼育放棄や遺棄などを行う悪徳業者は、義務化されたとしてもいずれは捨てる予定の犬や猫に装着はしないだろうとの指摘もあります。
装着しなくても現状では罰則は設けられていません。事業者に課せられた飼養管理基準(数値規制)の徹底として、繁殖制限措置である交配が可能な上限年齢が守られているかどうかを個体ごとに確認する狙いもあるとされていますが、それもまた法の抜け道を考えるのではないかと懸念されています。
効力の発揮には正しい理解と「監視の目」が重要
2022年6月1日時点で、犬猫等販売業者が既に所有している犬や猫に関しての装着は努力義務とされる予定です。そのまま装着することなく、繁殖引退後に遺棄される可能性も否めません。一般の飼い主が飼う犬や猫に関しての装着も努力義務であるため、飼育放棄や遺棄が減るとは考えにくいのです。
また、海外においては、犬の体内からマイクロチップを取り出してから遺棄されたという事例もあり、装着することでさらに犬や猫を苦しめることになるのではとの指摘もあります。施行後は、それらに対する「監視の目」もアップデートされることを期待します。
筆者は「マイクロチップは飼い主と犬や猫をつなぐ大切なデータシステム」だと捉えています。この義務化をきっかけにマイクロチップの正しい情報が多くの人に伝わり、その知識や捉え方が進展していけば、根強い抵抗感や不安も払拭されていくと考えます。
まずは、「マイクロチップを正しく知る」ことが大切です。そのための啓蒙活動をさらに進めることもまた重要です。普及が広がり効力を発揮するまでには、まだまだ多くの課題があり、時間が必要です。
施行後はその状況をしっかりと把握し、見極めながら、よりステップアップしたシステムを構築していく必要があるでしょう。