犬と接するときにはどんなことに気を付ければいいのか。ドッグトレーナーの鹿野正顕さんは「この20年の科学的研究で、犬にまつわる常識の多くが覆されている。犬のためにも、科学的エビデンスにもとづく接し方を心がけてほしい」という――。

※本稿は、鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

かわいい柴犬
写真=iStock.com/Elena Shvetcova
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犬のしつけについてずっと無知だった日本

日本ではなぜか、犬のしつけというものがあまり重視されずにきました。

ペットショップやブリーダーは、犬を売ってしまえば、その後のしつけまでは面倒を見ません。おまけに犬種ごとの特徴や飼い方の注意などの説明が、十分になされないことが多かったのです。それはまさに「取扱説明書なし」の状態で商品を渡すようなものでした。

犬を飼うのが初めての人は、犬の飼い方の本に載っているしつけ法を見て、そのようにやってみて、思うようにいかないと放っておくことになります。

やさしさと甘やかすことを混同して、愛犬がやることはなんでも許してしまう飼い主さんもいます。それでは、どうしてもやりたい放題のわがままな犬になってしまいます。

個人の家の中だけならそれでも許されるのですが、人間も多く、ほかの犬と出会うことも多い日本の社会で、「しつけなしで犬を飼うのはルール違反」といわれても仕方がないでしょう。

エビデンスをもとにした正しい飼育法

上手に楽しくしつけをしたいのに、自分の愛犬に合った方法がわからない。

そうした悩みを抱えていた飼い主さんたちを、僕はたくさん見てきました。

そもそも、かつてのしつけのやり方は、「犬とはどういう動物か」というエビデンスがないまま行われていました。

それはもう時代遅れのやり方なのです。

この20年ほどの間に犬についての科学的研究は飛躍的に進み、いまではしつけにも一定のエビデンスにもとづいた方法がとられるようになっています。

「指示に応じてくれること」と「命令に服従させること」とを明確に分けて考え、家庭犬は、叱ってしつけるのではなく、ほめてしつけることを原則に考えるようになりました。

それはつまるところ、しつけのやり方も含めて、人と犬が共に暮らすとき、“お互いがなるべく幸せな気分で過ごせるように”方向付けされてきたということです。

古い常識はくつがえされる――。

2000年以降、世界各国で犬の行動や認知について科学的な検証が行われるようになり、その結果、古い常識の何割かは誤りだったり、根拠のない思い込みだったことがわかってきました。

くつがえされた常識や、いまだに誤解の多い犬の習性について、以下にいくつかの例をあげておきます。