なぜ「ムダ吠え」をしてしまうのか
飼い主さんの悩みで最も多いのが、「ムダ吠えが直らない」というものです。
とくに集合住宅や家の密集した都市部で犬を飼う場合、深刻な悩みになりかねない問題です。しかし犬にとって「ムダ吠え」というものはなく、吠えるのは何かしらの理由があって吠えているのです。
吠える(Bark)理由としては、「注意喚起、防衛、挨拶、警報、遊び、寂しさ」という6種があげられます。
玄関のチャイムが鳴ったら吠える、人が来たら吠える、バイクや自動車の音に吠えるなど、飼い主からすれば「なんでいちいち吠えるの!?」と言いたくなると思いますが、犬はなわばりへの侵入を警戒したり、家人へ注意喚起のつもりで吠えるのです。
それをムダ吠えとして「コラッ、やめなさい」と叱っても、なぜ叱られるのか犬にはわかりません。挨拶のつもりで吠えるのであれば、人も挨拶を返してあげることが必要ですし、人が外出しようとすると吠えるのなら、留守中の寂しさを紛らわせるおもちゃを用意するなど、何か工夫が必要でしょう。
理由があって吠えるのに、人がそれに対応してくれないと、さらに不安を覚えてまた吠えることになります。吠え声がやまないのは、吠える理由に応じた人側の対応ができていなかったり、曖昧だったり、要求に十分応えていないことが多いのです。なお、ストレスなどによる過剰な吠えについては、『犬にウケる飼い方』第4章の問題行動のところで説明します。
噛みつきは決して攻撃が目的ではない
「飼い犬に手を咬まれる」とは、面倒を見ていて信頼していた部下に裏切られるような場合に使われますが、犬は裏切りで人を咬んだりはしません。
また、人に危害を加えようという攻撃の目的で咬んだりもしません。
人に対する咬みつきは、ほとんどの場合が不安からきています。強い不安からくる恐怖やストレスによって起こる、防衛的な威嚇行動であることが多いのです。
アメリカの生理学者ウォルター・ブラッドフォード・キャノン(Walter Bradford Cannon)は、動物が強いストレスを受けると「ファイト・オア・フライト(戦うか逃げるかの行動)」と呼ばれる反応を示すことを提唱していますが、動物は追い詰められたり、強い恐怖を感じたとき、まず逃げる行動を選びます。
その余地がなく切迫した状況のとき、やむを得ずファイトすることになります。ファイト=攻撃は最後の手段なのです。
飼い主とファイトする状況は、普通はあり得ませんから、犬が咬むときは危機や恐怖を感じたときの威嚇なのだと理解しましょう。
家庭犬が危機を感じるケースはそう多いはずがありません。しかし、ふだんからストレスを抱えている犬だと、飼い主がおもちゃを片付けようとすると、「おもちゃを取られてしまう」と感じたり、自分が寝床にしているソファに人が近づいてくるだけで、「寝床を奪われる」と感じて、咬んでしまうという例があります。