妹と取り組んだ「おむすびころりん」実験

田上さんは幼少期からアリやミミズを家で飼うなど、生き物観察が好きだったという。そうかと言って、生き物一辺倒ではなく、高1のときには妹と一緒に「摩擦係数の測定による『おむすびころりん』が実現可能であるかどうかの検証」という物理的な実験にも取り組んでいる。

「それまでおむすびが実際に転がっている場面を見たことがなく、本当に『おむすびころりん』の絵本のように、転がるのか、おじいさんは追いつけないのか気になったんです。実際におにぎりを握って、いろいろな条件で、転がしてみたところ、おじいさんが追いつけないくらいのスピードでおにぎりが転がることは可能であることがわかりました」

疑問に思ったら、自ら調べないと気が済まない性格のようだ。科学者向きの性格と言えるだろう。しかしなぜアメリカの大学を目指したのか。

「高1でSSH発表会に参加したとき、招待されて会場に来ていた海外の高校生たちと交流する機会がありました。そのときアメリカの大学に興味を持ったんです。高2のとき、京都で開かれる学会のために来日していたカリフォルニア大学アーバイン校教授で、蚊が媒介する感染症の研究者のアンソニー・ジェームズ博士から、いろいろお話を伺ったのも、アメリカの大学で研究したいと思った理由です。

田上さん
撮影=東谷忠
田上さん

博士の科学者としての経歴、蚊の研究に携わるようになったきっかけ、また今、蚊について研究されている遺伝子の話などを伺いました。他には将来良い研究者になるために今から多くの論文を読むように強く勧めていただきました。それまで僕は自分の蚊だけをずっと観察したり調べたりしていたのですが、その後論文を読んで世界にはすごい蚊の研究をされているすごい研究者がたくさんいることを学びました」

オーストラリアの「モンテッソーリ教育」

日本の大学を経由せずに、進学先にアメリカの大学を選んだのは、父親の転勤で海外で長く暮らした経験も関係しているかもしれない。

田上さんは1999年にアメリカのシカゴで生まれ、2歳でオーストラリア、10歳でシンガポールに移り、14歳のときに日本に来た。最も長く過ごしたオーストラリアでは、生徒の自主性を重んじて、知的好奇心を育むカリキュラムで知られる「モンテッソーリ教育」を取り入れた幼稚園、小学校で教育を受けている。中3から高3まで日本で教育を受けているが、高2の夏から高3の夏まではオーストラリアに1年間留学している。

蚊の研究をはじめたのは、シンガポールでの経験も関係しているという。